レギュラー経験のない監督
学生野球は人生哲学を教えてくれる。早大野球部を日本一に導いた高橋広監督の指導の肝は「ぶれない」ことである。学生を「信じる」ことである。指導の根底には、野球と学生への「愛情」が流れている。
先の全日本大学選手権の決勝(神宮球場)で、早大は流通経済大に逆転勝ちした。監督就任1年目で東京六大学リーグを完全制覇し、3年ぶりの日本一を遂げた。昨年まで34年間、監督を務めた徳島・鳴門工(現・鳴門渦潮)高時代には甲子園準優勝(2002年春)止まりで全国制覇はできなかった。
高橋監督にとっては、自身初の頂点である。学生の手で3度、宙に舞った。早慶戦に勝ってリーグ優勝を決め、大学選手権でも勝ち抜いた。旧友から「早慶戦、完全制覇、きょうの勝利。喜びはどう違うの?」と聞かれ、60歳の高橋監督は男泣きした。
「これまで日本一って取ってないでしょ。だから、きょうの日本一は本当にうれしい」
苦労人である。選手時代、捕手として愛媛・西条高から早大に進んだが、1学年下に山倉和博さん(元プロ野球・巨人)がいたこともあってレギュラーになれなかった。4年生時は下級生の指導係(学生コーチ)を努め、指導者への道に入った。
卒業後、教師として鳴門工高に赴任し、野球部コーチとなった。草花を育てるように生徒に接し、監督として甲子園に8回、出場した。その手腕を買われて今年1月に母校の監督となった。大学時代、レギュラー経験のない監督は極めて稀である。