「ビッグデータ」が保険を変える

今年5月中旬、シンガポールで行われたジュネーブ協会の年次総会に参加した。この協会は世界約80の保険会社のCEOを会員とするシンクタンクであるが、総会では「ビッグデータ」をテーマにしたパネルディスカッションのモデレーターを務め、世界のCEOと活発な議論や意見交換を行なった。

櫻田謙悟・SOMPOホールディングス社長

本総会への参加を通じて痛感したのは、従来型の頭では理解できないことが既に起きているということ。ICTによって、生損保のビジネスモデルが根底から変わる時代が迫っており、このままでは日本の保険会社が取り残されることへの危機感を持たざるを得なかった。

たとえば、欧州のある会社ではビッグデータを利用した自動車保険を発売し、ここ数年で契約件数を大幅に伸ばしている。当社も自動車に搭載した情報通信機器から取得した走行データを企業の安全運転支援に生かす「スマイリングロード」を今年から提供したところであるが、既に何十万件もの契約実績を持つ欧州の保険会社の抱える人材、ノウハウには及ばないだろう。

これからの保険事業に必要となるのは、次の3つの専門的能力にあると考えている。すなわち、(1)ICT活用力、(2)統計学的手法の活用力、(3)企業におけるCIO(最高情報責任者)の翻訳力である。とりわけ、CIOには経営の考えをデータサイエンティストやシステムエンジニアなどが理解できる言葉に翻訳する能力が重要になってくる。

今の保険業界を取り巻く環境も数年前にはまったく予測できなかった。このところの世界的な資金の流れについてもそのひとつだ。日本だけでなく、欧州においても加速している量的金融緩和の影響で保険市場に多額の資金が還流してきている。現時点での保険需給バランスでは、サプライサイドが大きいため、保険料が下がる「ソフト化現象」が起き、巨大マーケットである先進国市場では規模拡大を通じたマーケットリーダーシップやさらなる経営効率の改善を求めて生損保会社のM&Aがグローバルに加速する状況も生まれている。