デフレ脱却への鍵を握り、妥結状況が注目された今春闘の賃上げは、第一関門となる大手企業が17年ぶりの高い水準となり、企業側に強く賃上げ圧力をかけてきた安倍晋三政権の要請に沿う形で落ち着きそうだ。

日本経済団体連合会(経団連)が4月16日に発表した労使交渉の第一次集計によると、基本給の底上げとなるベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた賃金上昇率は2.59%と、1998年実績(2.62%)以来、17年ぶりの高い伸び率となった。金額も月8502円で、同じく17年ぶりに8000円台に乗せた。対象は従業員500人以上の企業で、1次集計は62社にとどまるものの、昨年の最終集計の2.28%を上回り、2年続けて2%台の上昇率となるのは確実だ。

春闘相場のリード役である自動車や電機の業績が好調だったことが高い上昇率につながったのはいうまでもない。しかし、政府による2年連続という異例中の異例となる賃上げ要請が賃上げ額をつり上げ、「官製相場」の色合いが濃く表れた面も否めない。経団連の榊原定征会長は同日の経済財政諮問会議に集計結果を報告し、安倍首相は「経済の好循環を2巡、3巡と回していく」と賃上げの流れを歓迎した。

半面、賃上げが中小企業に及ぶかは依然不透明だ。甘利明経済再生担当相は同日、中小企業を束ねる日本商工会議所の三村明夫会頭と会談し、中小企業の賃上げを重ねて要請した。そこには、景気回復に力強さが欠け、「アベノミクス」の矢が尽きつつある現状で、景気の底上げへの切り札は、企業の賃上げしかないという姿勢が垣間見られる。そこには安倍政権の生命線でもある株価の押し上げ手法もいとわない「官製相場」形成と同質な意図を色濃くにじませた。

半面、政府の強硬な賃上げ要請に“背伸び”して応じた企業があったことも想定でき、3月の日銀短期企業経済観測調査(短観)や民間設備投資の先行指標となる2月の機械受注統計には設備投資に慎重な姿勢も窺え、賃上げによる反動が表れている可能性も捨てきれない。

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