「情報倫理」という科目で著作権の章に入ると、学生たちのテンションが急に上がる。私の教えている芸術学部では、彼らの創作活動に深く関わるからだ。

勢い、質問も多くなる。

「このケースは引用と考えて、大丈夫ですよね?」

「うーん、どうかなあ……」

首尾よく先生のお墨付きをもらって、許諾を得ないで他人の著作物を使いたい学生と、簡単にはOKと言わない教師。全国の教育現場で似たようなやり取りが繰り広げられていることだろう。

情報化の進展により、急速に私たちの前に姿を現した著作権問題。専門家はどのように説明するのか。本書は若い読者を想定し、平易な書き方に終始しつつも、内容には一切妥協がない良書だ。

基礎知識編では、著作物の定義からオーソドックスに解説しているが、決して通り一遍の説明の仕方ではない。ハローキティで有名なサンリオのキャラクター「キャシー」が、世界的に有名な「ミッフィー」の著作権を侵害していると訴えられた裁判。当のキャラクターを並べて表示するのは当然としても、ピーターラビットや鳥獣戯画、果ては本物のウサギの写真まで持ち出して、シロ派、クロ派の言い分を吟味している。

応用編では、私たちが引っかかりそうな個所、旬な話題が取り上げられる。ピンポイントの解説はどれも明快だ。パロディやリミックスの限界は? 違法動画は見ていいのか? リツイートはいいけどパクツイは駄目?(※)

音楽利用の場合の特殊性も興味深い。私は授業でJASRAC(日本音楽著作権協会)をかなり悪玉的に説明しているが、いい面にもきちんと触れて公平を期さねばと少し反省した。

読了すると、著作権にはグレーな部分が多いことを改めて認識させられる。それが著者の狙いでもあるのだろう。べからず集に従うのではなくて、自分の頭で考えよう。若い読者へのそんなメッセージを感じた。

さて、本書で最も印象的な個所は、実はあとがきの最後の一文である。

「本書の図版は、引用の条件を満たすと断定できずに許諾を得た2点を除いて、すべて筆者の判断で選択し掲載したものです」

えーっ、これだけ図版を使いまくっているのに? 著者の福井氏は、著作権の専門家として業界では誰もが知る有名弁護士だ。ご不満なら白黒つけましょうか? そんな自信が垣間見え、本書全体の爽快感にもつながっている。

カッコいい著者を見習いたいが、小心な私には、リスクが頭をよぎる。いざ学生から相談を受けると、やはりこう言ってしまいそうだ。

「一応、許諾を取っておいたほうがいいよ……」

※リツイート:他人のツイートをほかの人に知らせて共有すること。パクツイ:パクリツイート。他人のツイッターでの発言をあたかも自分の発言のように見せて使うこと。

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