第一次安倍政権で経済財政諮問会議委員も務めた日本を代表する経済学者が、今後の日本にとって必要な経済政策を論じたのが本書である。その主張は、「はじめに」で書かれている以下の一節に集約されるだろう。「2010年代の、日本経済の最大のリスク要因は政府債務である。(略)本当に手遅れにならないうちに、財政政策の舵を切ることが大切だ」。

財政再建の重要性を訴える書物や提言は少なくない。その中で本書が独特なのは、どちらかといえば国際金融の分野などを中心に幅広く日本の経済政策のあり方を論じてきた著者が、様々な政策の中で何が必要かを検討した結果を示している点だ。はじめに財政問題ありきの議論ではない。だから冒頭で「経済政策を論じた本」と紹介したのである。

著者には、インフレターゲティングに関する著作もあるし、規制改革に関する論考も多い。本書でも金融政策による打開の可能性や、規制改革や成長戦略による財政状況改善の可能性などについても論じられている。しかし、それでも著者は、財政健全化が生命線だと主張している。

その理由については本文にゆずるが、中身の議論は感情論に流されず、詳細なデータに基づいて厳密な議論が展開されている。ところどころ専門的な説明もあるが、それらも含めて説得力のある論旨が一貫して展開されている。

また、著者は長年政策の現場に携わってきた研究者であり、当事者でなければ知りえないような記述も多い。それら「内輪の話」がわかるのも本書の魅力の一つだろう。たとえば、細かくつけられた[注]に、思いがけない事実が書かれていたりする。

本書の執筆は、14年11月に消費税率引き上げ延期が決定される前に始まっている。したがって、当初の原稿では10%への引き上げが予定通り行われることが議論の前提になっていた。ところが出版直前に「引き上げ延期」が決まったため、内容をかなり修正しなければならなくなった。

しかしながら、やや皮肉なことに、そのことが結果的に本書の魅力をより高めているように思われる。それは、10%延期を巡る議論の解説が大幅に追加された結果、そのことの持つ将来的な意味がより明確にされたからである。

それにしても、スケジュール通りの税率引き上げが見込まれる中でも、大きな危機が予見され、実態を熟知した経済学者が本書のような警告の書を書かねばならないと考えていた――という点は、肝に銘じておくべきだろう。延期が決まった今、本書の警告はより一層、重要な意味を持つ。

骨太なだけに、簡単には手が出しにくい本かもしれない。しかし、時間をかけてでも読む価値がある。お勧めの一冊である。