分子標的薬は「ADC」に進化へ
次世代の分子標的薬の開発も始まっている。そのうち実用化されているのが、分子標的薬のひとつである抗体医薬品と、従来の抗がん剤を組み合わせたハイブリッド型の「抗体薬物複合体(ADC)」だ。
ADCは分子標的薬の「がん選択性」と従来型の抗がん剤の「殺細胞毒性」という2つの特性を併せ持つ。ターゲットに食いつきやすい抗体が、がん細胞にたどり着いた時点で「毒素」を放出するように設計されている。ミサイルに例えるなら、抗体医薬品がミサイル本体で抗がん剤が弾頭といったところだろうか。抗原を持たない正常細胞にはダメージがなく、重い副作用は避けられる。
13年2月、米食品医薬品局は、乳がんの標的であるHER2を標的とした抗体医薬品と抗がん剤のハイブリッド薬「トラスツズマブ・エミタンシン(商品名カドサイラ)」を承認した。
既存の分子標的薬が効かなくなった患者対象の臨床試験では、既存の標準治療より生存期間を延ばすことが確認された。また「毒素」が原因の副作用はほとんど見られなかった。日本国内では、中外製薬がHER2陽性転移・再発乳がんを対象に申請を行い、13年9月に厚生労働省より承認された。胃がんを対象とした国際第II/III相試験も行われている。
これに先立つ13年3月には、武田薬品工業が血液がんの一つである「再発・難治性ホジキンリンパ腫」を対象としたADC「アドセトリス」の申請を行い、承認を取得している。米バイオベンチャーが開発したADCで、すでに欧州と米国でも承認済みである。