2015年3月1日(日)

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がんは不治の病ではない。研究の現場を訪ね歩くと、そう感じる。アプローチは1つではない。治療法はあらゆる角度から進化している。研究者たちのほとばしる熱意を感じてほしい──。

「獲得免疫」を活性化。副作用は軽い

京都大学再生医科学研究所 教授 河本宏氏

ワクチンとは毒性を弱めた病原体を使った医薬品だ。体を守る仕組みである「免疫」に病原体の特徴を覚えさせ、感染症などを「予防」する。インフルエンザの予防接種などが予防用ワクチンの代表例だ。

だが近年、「治療」を目的としたワクチンの開発が進んでいる。なかでも注目されているのが、治療用のがんワクチンだ。

免疫は、体外から来た「異物」を「抗原」と呼ばれる物質で区別して、体を守る。その反応は「自然免疫」と「獲得免疫」の2つに分けられる。自然免疫は先天的に準備されているもので、さまざまな抗原を対象に初期防御を担う。

一方、獲得免疫は初期防御で得た情報をもとに特定の抗原を強力に排除する。自然免疫で司令塔の役割を担う「樹状細胞」が、体内に侵入した抗原の情報を「T細胞」などの獲得免疫に伝え、その情報に従って特定の抗原だけを攻撃するように獲得免疫をつくり替えるのだ。

治療用のがんワクチンはこの過程に介入し、人為的につくり出したがん固有の抗原を体内に入れて獲得免疫を活性化し、がん細胞を攻撃する方法だ。外科手術や薬物、放射線療法の「三大療法」より副作用が軽く、患者の関心も高い。

治療用のがんワクチンには、ヒトがん細胞で大量に発現している特定の抗原を使った汎用型と、一人ひとりのがん細胞から作製する個別型がある。

個別型の代表例が世界初の前立腺がんワクチン「プロベンジ」だ。自分の免疫細胞に体外でがん抗原を学習させ、体内に戻す仕組みだ。しかし効き目が限定的なうえ、3回の投与で約9.3万ドルと高額なため、一般には広がっていない。

国内では自由診療で個別型のがんワクチン作製を担うクリニックが多数ある。

がんワクチンではなく、「免疫細胞治療」と呼ばれることも多く、関連書籍がいくつも出版されているなど関心も高い。

具体的には、リンパ球を体外で増殖させる「活性化自己リンパ球療法」や、樹状細胞に自身のがん細胞を体外で取り込ませる「樹状細胞療法」などがある。

しかし現状では保険診療が認められておらず、自由診療になってしまう。しかも患者ごとに、体外でリンパ球を培養したり、樹状細胞への電気刺激を与えたりする手間がかかるため、費用も高額になる。

免疫の働きは個人差が大きいため、たとえ数百万円の治療費を負担したとしても、病状が回復するとは限らない。そうしたリスクを十分に説明しない悪質なクリニックもあるようだ。

保険医薬品としては、久留米大学医学部が「テーラーメイド型」のペプチドワクチンでの承認を目指している。複数の抗原を患者個人の体質に合わせて選択し投与する方法で、前立腺がんについては、すでに高度先進医療の承認を得ている。さらに、神経膠芽腫と前立腺がんを対象とした第III相試験を実施中だ。神経膠芽腫については企業が介入しない「医師主導治験」で5年以内の承認を目指す。

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