私は「世界連邦文化教育推進協議会」の名誉顧問に就任した。この「世界連邦」運動とは、アインシュタイン博士や湯川秀樹博士が核廃絶を訴えて始め、日本では「憲政の神様」尾崎行雄が帝国議会に決議案を提出し、湯川スミ夫人が長く尽力されてきたものだ。このたび、「世界連邦文化教育推進協議会全国推進大会」が京都で開催され記念講演を行った。会長は東久邇信彦さま、理事長は日本宗教連盟幹事で、神道扶桑教の宍野史生管長である。これまで宍野管長から名誉顧問就任の要請を受け、幾度も断っていたのだが、最終的にお引き受けすることにした。どう見ても文化や教育とは無縁のように見える無骨な私が、お役に立てることが何かあるのだろうか。
今回は、その講演の内容をご紹介したい。講演の内容があまりに堅すぎると思ったので、「私の人生で一番面白くないお話をすることになる」と宍野管長に事前にはっきりと宣言したところ、ずいぶんびっくりされていらっしゃったが(笑)、幸い好評を得たようで、安堵している。

読み書きができるという奇跡!

講演には会場に満杯の聴衆が詰めかけた。(写真=AFLO)

いまどきの若者には、馴染みがないかもしれないが、新作映画を公開するときの「封切り」という言葉は、江戸時代に生まれた言葉だ。文字通り封筒の封を切るところからきていて、何が出てくるのか楽しみだという喜びから「封切り」という表現になったそうだ。

江戸の人々が楽しみにしていた封筒の中に何が入っていたかというと、貸本の新刊だ。江戸時代は貸本業者が多く、それぞれが顧客のところに封筒に新刊を入れて届けていた。客の側にとってはまさに、封を切る楽しみがあったわけだ。

そういう習慣から生まれた「封切り」という言葉が、明治、大正、昭和と時代を超えて残るほど、江戸の庶民には漢字仮名交じりの物語を日常的に楽しんでいた人が多かったということだろう。当時の日本は、同時代のヨーロッパにも見当たらないくらい識字率が高く、豊かな読者層を誇っていた。

男性に人気があったのが、弥次さん喜多さんの東海道中膝栗毛。女性に人気があったのが、源氏物語を脚色したシリーズ本。流行りの着物を身に着けた登場人物の絵が描かれていて、江戸の貸本はいまでいうところのファッション雑誌の役割も果たしていたようだ。見方を変えれば、江戸時代の女性たちは、文字を読みこなす教育を受けていたことがわかる。17~19世紀の世界を見渡して、一般の女性や子どもが日常的に本を読んでいた国というのは、非常に少なかったと思う。