他人事のように聞いた岡本太郎

『世界に売るということ 』平野暁臣著(プレジデント社)

1970年の大阪万博でテーマプロデューサーを引き受けた岡本太郎は、テーマ館の企画制作という大プロジェクトに向けて、自身の下に多くの若きクリエイターを集め、プロジェクトチームをつくりました。

当時の内部打ち合わせの様子を記録した貴重な映像がNHKに残っているのですが、それを見ると、太郎がスタッフたちにプロジェクトの哲学を熱く語っているのがわかります。思いが先に立って、とても理路整然とは言いがたいけれど、「これを伝えたい」という熱意はビンビン伝わってきます。

たくさんのスタッフが食い入るように太郎を見ています。みな表情が生き生きしていて、高い士気が手に取るようにわかります。

ところが、スタッフ同士で議論をはじめる段になると、太郎はいなくなってしまい、隣の部屋にいる事務の女の子をからかったりしていたらしい。

岡本太郎のパートナーだった、伯母・岡本敏子がよく言っていました。議論も尽きて、さて結論をどうするか、というあたりでまたフラフラ戻ってきて、他人事のように言います。

「で、どうなった?」

スタッフが経緯を説明すると、

「だったら、こうすればいいじゃないか?」

などとまた他人事のように言って出ていくのですが、そのひと言がきっかけになって、いつのまにか結論が見えてくる。

さんざん議論し尽くした後だから、太郎のひと言を聞いた瞬間に「これでいける!」とわかるのでしょう。

太郎は指示も命令もしていません。熱く哲学を語ったあとは、あえて放ったらかしにして、議論が進むのを待っています。

みんなで議論した末に結論に至るので、メンバーには自分たちで考え、自分たちで決めたという充足感が残ります。創造のプロセスに参画している、と実感できたでしょう。

クリエイティブなモチベーションを引き上げるうえで、これに勝る方法はありません。こうして太郎は若い才能をフルに引き出し、歴史に残るテーマ館をつくったのです。

もちろん太郎は「これがオレの人心掌握術だ」などと意識していたわけではないでしょう。おそらく長い会議が退屈でじっとしていられなかっただけです。しかし、彼の言動はともに仕事をする者たちのモチベーションを掻き立て、創造性を引き出しました。

これはオレの現場だ!

みながそう言いたくなる現場はたいていうまくいきます。だれしも経験があると思いますが、うまく運んだ仕事ほど、多くの人が「ああ、アレはオレの仕事だよ」「実はオレがやったんだ」「オレもちょっと絡んでたんだよね」などと言います。

ほとんど関係がなかった者までそんな風に言い出す状況こそ、プロジェクトが成功した証です。創造的な野心が刺激されるから次々にアイデアが湧き出てくるし、モチベーションが沸騰するから推進力がちがってきます。

“一緒につくっている実感”こそが、創造力を引き出すのです。

※本連載は書籍『世界に売るということ』(平野暁臣 著)からの抜粋です。