話の「ほころび」をどのようにつくりだすか
6代桂文枝でございます。本日は、「営業に役立つ話し方、聞き方」というお題を頂きました。実は私、何百人、何千人を前に話をするのは慣れておりますが、相手が1人や数人だと、どうも照れくさくて苦手なんです。でも、それじゃ話が前に進みませんね。『新婚さんいらっしゃい!』の話からしましょうか。
私が司会を務めるこの番組には、毎回2組の新婚カップルが登場します。一応ディレクターから情報はもらっていますが、私自身が事前に会うことはしません。だから、どういう展開になるか、毎回カメラが回ってみないとわかりません。その緊張感を大切にしたいのです。
本番中はいつも、どうやれば目の前の新婚さんのよさを引き出せるかを考えています。そのために必要なのは「ほころび」です。向こうの話をそのまま聞いても、面白くありません。それはテレビ用に準備してきた、ほころびがない話だからです。そこで、突然話の矛先を思いもよらぬ方向に持っていったり、相手の予想もしなかったような質問をしたりして、わざとほころびをつくるようにすると、相手は動揺します。そのときの表情、ポロッと口から出た言葉こそが、その人本来の姿であり、魅力なのです。
ただ、相手は素人なので、何が起こるかわかりません。なかには緊張で頭が真っ白になって、とんでもないことをしゃべり始める人もいます。ただ、そういうのはたいてい男性で、女性は落ち着いていますから、奥さんに「ご主人緊張してますね」と話を向ける。そうすると「いつもこうなんですよ。あんた、しっかりしいや」と、そこでまた人間ドラマが生まれるのです。
以前、こういう私の司会ぶりを見たある外国の方から「まるで剣術みたいだ」といわれたことがあります。確かに、相手が打ち込んできたらさっとかわし、ひるんだと見るやすかさず打ち込むという、44年間番組をやらせてもらうことで身につけた私のスタイルは、剣術に通じるところがあるのかもしれません。