農業再建や農協改革はいっこうに進まないうちに、農業従事者の人数はどんどん減っていく。マイファーム創業者の西辻一真は、農業をプロの農家ではなく、一般市民の手に渡し、自ら食べる野菜は自ら作る「自産自消」を提唱する。閉塞感漂う農業界に一陣の風が吹く。

「たのしい農業」しか続けられない

農業への企業参入が再建の切り札と言われている。確かにそれは必要だろう。実際に建設土木業からトマト栽培に参入して成功した山形県の山本組や、一般企業の経営手法を農業に導入して堂々たる利益を上げている長野県のトップリバーなどの企業もあるし、もっと企業からの参入が増えてほしい。

西辻一真・マイファーム社長

だが、耕地を集約して大規模化し、農地を所有できるようになるだけで、果たして企業が参入し、経営を成り立たせることができるだろうか。農業は自然と生き物を相手にしているだけに、工業製品のような生産管理ができないからだ。

マイファームを創業した社長の西辻一真(32歳)は従来と全く違った経営手法とビジネスを農業再生に取り入れた。それは生産者と消費者の垣根を外し、同じ土俵に乗せる一種の市場革命と言える。

西辻は実に素直な姿勢で農業に相対し、農作物や自然に対する敬意を失わない。

「農業は楽しみから入らないと続けられない。カネ儲けから入ると心が折れるんです。ITビジネスなら、徹夜でも頑張ってシステムを作り上げれば商売になるが、農業は頑張っても無理。農作業の時期は変えられないし、台風や冷夏など自然には逆らえない。だから、すぐに成果を求めず、待つ文化が大切です。日本人は農耕民族として待つ時間をいかに楽しむか知っている。待つ間に保存食を作ったり、わらじを編んだり、農家はマルチプレイヤーなんです」

苦労して農業を営んできたプロの農家からすると、「何を甘いことを!」と思うかもしれないが、西辻は言葉通り、農業を楽しみに変えるビジネスを一つずつ作り上げている。その行動力と粘りは賞賛に値するし、社会にも少しずつ影響を与え始めている。