ビール業界の市場環境が好転している。昨年のビール系飲料の出荷本数は前年0~1%減、今年はほぼ横ばい。若者の酒離れなどでここ数年2~3%減だったことを考えれば、状況は悪くない。

好転の要因は大きく3つある。

1つ目は、消費者の消費マインドが高まっており、お酒を飲む機会が増えていること。特に業務用、つまり居酒屋などでビールがよく飲まれている。

2つ目は「ビール回帰」だ。ここ数年は新ジャンル、いわゆる「第3のビール」が伸びていたが、ここにきて成長が鈍化する一方、落ち込んでいたビールが盛り返してきている。ビールのほうが価格も高く、収益性は上なので、これはポジティブにみていい。

3つ目は、2つ目と重なるが、ビールの中でも特にプレミアムビールが好調なことだ。基本的に縮小傾向にあるビール市場だが、その中でもプレミアムビール市場は毎年拡大を続けている。従来のサッポロ「ヱビスビール」、サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」に加えて、昨年からアサヒビールが「ドライプレミアム」を、今年からキリンが「一番搾りプレミアム」をギフト限定ながら発売するなど、大手4社すべてがプレミアムビールを販売するようになった。一見、限られたパイの取り合いに見えるが、新製品が出ることがむしろ市場拡大につながっている。

今後も、明るいトピックスがある。酒税改正だ。政府・与党は、今年末にまとめる2015年度税制大綱に、税率の低い発泡酒や第3のビールを増税する改革案を盛り込む方針だ。そのぶんビールの税率を下げ、税負担の格差を縮小させる。おそらくだが、定価215円ほどのビール(350ml)が200円程度に値下がりし、140円ほどの第3のビール(同)が160円程度に値上がりするのではないか。そうなると、ますますビール回帰が進む。繰り返すようだが、より利幅の大きいビールが売れることは業界として悪い話ではない。

今年10月には、ローソン会長を務めていた新浪剛史氏がサントリーの新社長に就任する。託された主なミッションは買収した米ウイスキー大手のビーム社を含めた海外展開の拡大とみられるが、ビール業界にも新しい風が吹くことは間違いないだろう。

(構成=衣谷 康)
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