プロフェッショナルとして尊敬を得るには

「ホテルは上流階級のお客様のもので、お前たちスタッフのものではない。お客様の富や地位を羨んではならない、なぜならお前たちはお客様のような紳士淑女には決してなれないのだから」。ホテルで働き始めた日、シュルツさんは総支配人にそう諭されました。わずか14歳の時ことです。そのように言う総支配人のもとで、シュルツさんがどのような扱いを受けたのかは想像に難くありません。

家族のもとを離れ、知り合いも誰もいない。さぞかし厳しい試練だったことでしょう。しかし、自らの意志で「ホテルで働く」ことを決めたシュルツさんは、その試練に耐えます。

そんなある日、シュルツさんは希望の光を見つけます。それはカール・ザイトラーさんという、メートル・ド・テールでした。

ザイトラーさんがレストランに入ると、場の空気が一変しました。ザイトラーさんはレストランにいるすべてのお客様とスタッフの注目を集めました。燕尾服を一分の隙もなく着こなし、白いネクタイを締め、靴は完璧に磨き上げられていました。お客様のテーブルを回り、そのお客様が話す言語を用いて、料理やワインはもちろんのこと、何を聞かれても深い見識に基づく見事な答えを返しました。紳士として、プロフェッショナルとして、ホテルにいるすべての人たちに尊敬され、必要とされていたのです。シュルツさんがそれまで学んできた価値観を覆し、強い輝きを放つもの、それはザイトラーさんの「エクセレンス」だったのです。

ホテルでは週に1度、1日かけてホテルビジネスの授業が行われました。ある日、エッセイの宿題が出され、15歳のシュルツさんはザイトラーさんについて書きました。エッセイのタイトルは、“We are ladies and gentlemen serving ladies and gentlemen.”というものでした。

「ザイトラーさんは見事にエクセレンスを実践しています。だからザイトラーさんはホテルを訪れる有名で裕福なお客様と同じように重要な人なのです」。ザイトラーさんに対する尊敬の念とともに、どうすればサービスのプロフェッショナルとして、お客様と同じ地位を獲得し、尊敬を得られるのかを、シュルツさんは考えました。

エッセイは次のように結ばれています。

「私たちが行うすべてのこと、テーブルを片付けること、皿を洗うこと、ベッドメイキングがエクセレンスとともに行われている限り、私たちもまた紳士淑女です」

シュルツさんは、このエッセイで、はじめてA評価をもらったのです。