「骨折より痛い」痛みとは

右足首の痛みは治まる気配がまったくなかった。

階段を下りるとき、異変を感じたのだから、捻挫か関節炎、と自己判断して、シップ薬を貼ってみたが、痛みは軽減されない。それどころか、次第に腫れが酷くなる。

初日は足首の周囲がむくんだように腫れていた。それが、甲から指先にかけてゴム手袋に息を吹きこんだようにぷっくりと膨れ、脛とふくらはぎはトン足よろしくぱんぱんに腫れあがった。

それでも痛みは足首に集中している。相変わらず、錐を装着した電気ドリルをぐさっと刺し込まれ、ぎゅんぎゅん回されているような猛烈な痛みである。

「いっそ、切って、捨ててしまいたい」

そんな衝動に駆られた。もし、チェーンソーか鉈があったら、早まっていたかもしれない。が、それすらできない。いかんせん、跛行すらできず、這って移動するようなありさまだったので。

それにしても、この痛みは何だろう。学生の頃、バイクに乗っていて、乗用車と正面衝突、一回転して路上に叩きつけられた。その際、とっさに柔道の受け身をして、頭だけはしっかり守った。だが、右膝下から出血していて、打撲もあり、強い痛みを感じた。救急指定病院で、足のレントゲンを撮ったが異常はなかった。ほかに痛むところは、と医者に訊かれ、右手小指のつけ根、手刀の部分が痛むような気がしたので、伝えると、触診して、

「ああ、こりゃ折れてるわ」

受け身をした際の衝撃で、骨折したらしい。すぐさまギプスで固定した。骨折の経験はそれしかない。その痛みを思い出そうとしたが、

「これほど痛くはなかったし、痛みどめの薬ものんだような、のんでいないような」

曖昧で、比較できない。

「90kgを超える体重を支えているんだ。いつ折れても、不思議ではなかろう」

私は勝手に骨折と決めつけていた。