日本ほど「植物工場」に適した国はない

【弘兼】食の安全保障という意味では、安全な食糧をいかに確保するかという話になります。いま「植物工場」が全国で増えつつあります。私も各地に取材にいき、『会長島耕作』のなかでさまざまな取り組みを紹介しています。たとえば宮城県・大衡村にあるトヨタ自動車「宮城大衡工場」では工場廃熱を利用してパプリカを栽培しているそうですね。自動車メーカーと農業という組み合わせは意外でした。

【新浪】農業に転用できる技術を、日本の企業はたくさん持っていますね。

【弘兼】誤解されやすいのは「植物工場」という言葉だと思うんです。室内で日光に当てず土も使わないので、栄養不足のまずい野菜しかできない――。そう考える人もいるようです。

【新浪】実際は全く逆ですね。適切に管理された植物工場では、ミネラルバランスのよい良質な野菜ができます。

【弘兼】天候や風土に左右されませんから、品質も安定しています。害虫や雑菌が侵入しないので、農薬を全く使わない生産も可能です。一時期、中国産野菜の農薬汚染が話題になりましたが、そういったリスクも避けられますね。

【新浪】安心で安全な食を考えると、国内での生産が一番です。ただ、コストを考えると、現時点では植物工場はまだコストが高いですね。

【弘兼】解決策はありますか?

【新浪】日本はより厳しい人口減少の局面を迎えつつあります。このため地方には廃校になった小学校や活用されていない行政施設が増えている。そういった施設を簡単な工場につくりかえれば、地元に雇用を生むこともできるでしょう。そこに日本の水でつくった安全な野菜という付加価値をつければ、価格は高くても、アジアの富裕層などにはアピールできるはずです。

【弘兼】無農薬の植物工場でとれた野菜は、洗わないで食べられる。というより洗わないで食べたほうが、より衛生的なんだそうですね。

【新浪】そういう食材を求めている人は世界にたくさんいます。日本は植物工場の立地に向いています。品質管理のできる優秀な人材に加え、きれいな水に恵まれているからです。これは東南アジアの新興国では、なかなか難しい。

【弘兼】水は工業の発達にも重要です。鉱物資源の豊富なアラブ諸国やオーストラリアに工業が発展しなかったのは水がなかったから。中国人も水を求めて、盛んに日本の土地を買っている。

【新浪】植物工場は水という日本の資源を最大限に活用することでもあります。