富裕層にメロンを空輸。農業で経済を盛り返す

【弘兼】日本は地域により驚くほど気候が違う。当然、適した作物も違います。

【新浪】大切なのは、品目を絞り込むこと。日本のメロンは、外国人に「シロップがかかっているのか」と必ず驚かれます。販路が整えば、絶対に海外で売れます。ただ、コスト競争力もつけるために効率化はさらに必要ですが。

【弘兼】製造業の企業と同じように、市場のニーズをマーケティングし、品目を「選択」し、労力を「集中」するわけですね。ただ、生鮮野菜の輸出を考えるならば、収穫から出荷までのインフラを整える必要がありますね。

【新浪】日本の地方空港はガラガラです。空港の近くに出荷場をつくり、どんどん空輸すればいい。これからTPPが動き出せばかなり面白くなるはずです。

【弘兼】TPPが新たなビジネスチャンスとなるわけですね。

【新浪】日本は、工業製品を世界中に売るために貿易自由化を進め、農業をその犠牲にしてきた――。そんな後ろ向きの発想を持つ人が少なくない。しかし自由な貿易は、富の源泉です。競争力のある農産物はたくさんあります。

【弘兼】農業に対する教育、「農育」も必要ですね。ぼくはいま、66歳です。ぼくたちが子どもの頃は、学校でハンダづけなどを教えられた。日本が工業国としてやっていくには、こうした技術が必須だと考えられていました。

【新浪】今後は農業をやりたいという人たちを育成するためにも、小学校や中学校で田植えと稲刈りを授業に取り入れるべきかもしれませんね。自分たちがチームワークでつくったお米は美味しい。こういう地に足のついた教育は絶対に必要だと思うんです。

【弘兼】農学部の数も少ない。農学部は理系学部ですが、「農業経営」といった文系の学部もあったほうがいい。また、徴兵制度という言葉がありますが、日本では「徴農制度」はどうでしょうか。全国民が1年程度、会社や学校を休んで農業に従事する。土に親しむ時間を強制的につくる。

【新浪】面白いアイデアですね。

【弘兼】これから日本は、電力は安定しませんし、法人税も相変わらず高い。工場は東南アジアなど海外にシフトしていくことでしょう。そうなると国内の産業は空洞化する。農業が雇用の受け皿となれる可能性があります。

【新浪】農業は日本のこれからの成長産業となるべきだし、ならなければならない。日本経済を農業で盛り返していくことは可能だと思うのです。

(文中敬称略)

ローソンCEO 新浪剛史
1959年、神奈川県生まれ。81年慶應義塾大学経済学部卒業、三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了、MBA取得。2000年ローソンプロジェクト統括室長を経て、02年ローソン顧問から社長に。10年より経済同友会副代表幹事。
漫画家 弘兼憲史
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年に『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年に『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞を受賞。2007年紫綬褒章受章。
(田崎健太=構成・文 門間新弥=撮影)
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