▼齋藤さんからのアドバイス

文章の最初と最後は読み手の印象に残るような工夫が必要ですが、肩に力が入りすぎてしまうのか、最初の一文が浮かばないことがあります。解決策として、最初の一文にこだわらず、最後までひと通り書いてみることをおすすめします。最後まで書いたら、その中から文章の核となるキーフレーズを3つ探します。

キーフレーズは、問いと答えでいうと答えに当たる部分でもあります。本来であれば、「この文章は何のためにあるのか」という問いは、たとえ漠然としたものであっても書く前から浮かんでいるはずです。ただ、それを文章という形で表現することに手間取るなら、逆に答えのほうから問いを明確にしていくアプローチがあってもいい。

つまり、キーフレーズが見つかったら、逆にキーフレーズから問いを立てていくことにより、問題意識を読み手と共有できるような一文をつくるのです。後は、それを頭に持ってきて二文目以降を整理するだけです。

ビジネス文書では、最初に結論を持ってくる方法も有効です。一般的に文章は起承転結で書くべきだといわれますが、ビジネス文書に小説のようなドラマチックな展開は必要ありません。忙しい人ほどいきなり本質を知りたいはずですから、むしろ「起」や「承」を省いて、最初に「結」を持ってきたほうが喜ばれます。

このときも、最初の一文が思いつかないのであれば、ひとまず書いてしまってからキーフレーズを抜き出すといいでしょう。キーフレーズをそのままコピー&ペーストする感覚で冒頭に持ってくれば、それが読み手にとって、もっともインパクトのある冒頭文になります。

キーフレーズを文章にすることが難しければ、個条書きにして四角で囲っても構いません。ビジネス文書で、作文の体裁に縛られるのはナンセンスです。読み手が続きを読みたくなるような一文であれば、それで冒頭文の目的は十分に達せられるでしょう。

明治大学教授●齋藤 孝


1960年、静岡県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書多数。近著に『坐る力』『1分で大切なことを伝える技術』『若いうちに読みたい太宰治』など。
(村上 敬=構成 相澤 正=撮影)