すぐに優れたリーダーになれるわけではない。入社して30代前半までの最初の10年間はアリのように泥まみれになって働く。若い時期に人生を切り開くために必要な仕事の基本を体に覚えさせる。力を出し切るまで働くという意味を込めて、私は“泥のように働け”という。――伊藤忠商事 丹羽宇一郎

(09年4月13日号 当時・会長 構成=勝見明)

新しいアイデアのすべてが成功に至るわけではない。「千三つ」の世界だろう。農作でも10の収穫を得るには1000の種をまくという。ならばそんな 無駄はせず、初めから10の種をまけばいいではないかというとそうではなく、1000の種をまくから最後に10が残る。最初の1000の種を大事にするか らこそ、オンリーワンの製品や技術が生まれる。――神戸製鋼所 佐藤廣士

(09年6月15日号 当時・社長 構成=勝見明)

楠木 建教授が分析・解説

丹羽宇一郎氏

丹羽氏が「泥のように働け」と言うのは基本を体に覚えさせるということだ。普通の人間なら「泥のように働け」と言われても「そんなに働いて何かいいことがあるの?」と思ってしまう。しかし、世の中には若いうちからそれができる人がいる。なぜできるのかといえば、努力や苦労に対するリターンを長い時間軸で考えられるからである。

今日だけで考えれば疲れるし、辛いし、さっさとやめたい。でも3年後、5年後、将来はこんなことができるようになると思えばやり抜ける。我慢強い人や苦労を厭わない人というのは、持っている時間軸が長い人なのかもしれない。

佐藤廣士氏

そう考えると、やり抜く力というのは長期雇用の下のほうが出やすい。「今の苦労が後々実る」と言われても契約社員の立場ではピンとこない。正社員のほうが泥臭く頑張れる。終身雇用とは社員のやり抜く力を担保するシステムでもある。

神戸製鋼の佐藤氏が言っていることも実はニュアンスが近い。ビジネスのアイデアが成功するかどうかは「千三つ」で、一つひとつの可能性を考えたら、とてもやり切れない。しかし、1000の種をまくから3つの実りを手にできると時間軸を長くして発想すれば、徒労に終わるかもしれない目の前の仕事にも頑張れる。