社長時代に私がよく社員に話をしたのが「7対3の仮説」である。

私の社長就任当時、拓銀や山一証券が相次いで経営破綻するなど、国内の経済環境は非常に悪かった。銀行経営においても不良債権の償却や公的資金の注入など、後ろ向きな話題が多かった。しかしどんな環境であろうと会社は黒字に持っていかねばならない。したがって期初に課せられる目標は、社員にとって到底達成不可能な高い数字になってしまうことが常であった。「そんなものできるはずがない」というのが、目標に対する社員の第一声だった。

そこで私が説いたのは、「達成のメドがついているものは目標ではなく予定である。私が示したものは予定ではなく目標なのだ。物ごとの7割は通常の継続的な努力の中で見通せるが、3割は読めない。計画や目標において予測の精度を上げることより、重要と考えるテーマを設定し、挑戦することのほうが大事だ。それこそが、企業人としてのロマンであり夢だろう――」と。

(10年8月30日号 当時・会長 構成=小澤啓司)

楠木 建教授が分析・解説

高橋氏は3割読めないというが、むしろ私は読めない部分が7割なのではないかと思う。

「企業人としてのロマン」という言葉にこだわれば、7割読めないぐらいのほうが人間はやり抜けるのではないだろうか。

「世の中こうなるだろう」と10割読めたら面白くない。やり抜く力にとって大切なのは「世の中をこうしたい」という意思である。

そうなるかどうかはともかく、「ひょっとしたら……」という気持ちが行動力につながるのだ。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)教授 楠木 建
1964年、東京都生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。2010年より現職。著書に『ストーリーとしての競争戦略』『戦略読書日記』。