佐々木 実(ささき・みのる)
1966年、大阪府生まれ。91年、大阪大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。東京本社経済部、名古屋支社に勤務。95年に退社し、フリーランスのジャーナリストに。初の著書である本作で、第12回新潮ドキュメント賞を受賞した。

取材・執筆に8年。その長い歳月をかけて佐々木実さんが描いたのは、小泉政権下で「改革」の旗手となった経済学者・竹中平蔵の半生だ。あるときは経済評論家として、またあるときは企業家として振る舞い、そして小泉政権では政治権力を手にして「改革」に邁進する政治家へ――。

「そのようにいくつもの立場を使い分けながら現在の地位を築いた彼は、私にとってとても謎めいた人物でした。いったい何者であり、どこから現れたのか。様々な人々を惹きつける彼の力の源泉を見つけたかった」

佐々木さんは竹中平蔵の半生を幼少時代から紐解いた。一橋大学、日本開発銀行、大蔵省財政金融研究室やアメリカ経済学の世界への関わり……。各界の実力者や海外でつくり上げた人脈を貪欲なまでに活用しながら、独特の地位を手に入れるに至る過程をつぶさに見ていくのだ。数多くの関係者の証言から紡ぎ出される人物像と郵政民営化など当時の「構造改革」の内幕の描写は、優れた調査報道ならではの迫力に満ちている。

「取材の中で気付いていったのは」と佐々木さんは言う。

「冷戦構造が終焉し、マネー資本主義の時代が訪れる中で、彼のような経済学者が活き活きと活躍できる場がその『時代』そのものによって用意されたのだという実感でした」

本書は1人の経済学者の半生を通して、「構造改革」を検証した1冊でもある。8年という歳月はそのために必要な時間でもあった。

「彼は以前から議論に負けない『論客』でしたが、その手法によって失われてきたものがある。調べていると、あの頃から政策の議論が勝ち負けを争うゲームのようになり、現実の認識が二の次になっていったことがわかります。その風潮はアベノミクスが喧伝される今ともよく似ている。爛熟した資本主義と国家の問題が全く新しい形で絡み合っていく時代を見つめるうえで、彼がどのように行動し、発言していくかは今後も注目すべきことだと思います」

(市来朋久=撮影)
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