バッタ博士・前野ウルド浩太郎は京大白眉プロジェクトの内定を獲得した。
来年4月からは、安定した収入を得て研究活動を続けることができる。これから博士は何をどのように研究していこうと考えているのか。
京都大学での内定式ルポと合わせて、博士へのインタビューをお届けする。

ご結婚の予定は?

平成25年度京都大学白眉センター内定式にて。見慣れぬ黒いスーツ姿で擬態しているので判別が難しいが、二列目左端がバッタ博士。(撮影・編集部)

来年4月からバッタ博士は「京都大学白眉センター年俸制特定教員(助教)」となる。すなわち京都大学の職員だ。健康保険も使える。博士に「給料はいくらですか」と聞くと、「いや、まだ自分もよくわかってないです」とのことなので、「国立大学法人京都大学特定有期雇用教職員就業規則」内「第2章 年俸制特定教員/俸給」を見てみると、A=40万円からV=170万円までランクが分けられており、「額については、雇用される者の経験及び能力に応じて決定するものとする」と書いてある。ということは、博士は最低でも月40万円の給料を得ることになる。ところで、モーリタニアと日本を行き来する交通費はどうなるんですか。

【前野】給料とは別に毎年100万~400万円の研究費を戴けるので、そこから出せます。あと(白眉研究員というポジションを国内に得たことで)別途研究費の申請も出せるので、それが獲得できれば、リッチに研究に使えます。

――博士は春から京大白眉センターの助教となるわけですが、読者に向けて「助教」とは何かを説明していただけますか。

【前野】自分、助教になるということで、最近、 Twitter 上で「JK」と呼ばれました。大学は、助手→助教→准教授(注・旧称は助教授)→教授と階級があるんですが、その下から2つめです[※訂正記載あり]。ポストさえあればポスドクからいきなり准教授になることもできます。助教は英語だとアシスタント・プロフェッサー、教授を助ける仕事という意味ですが、白眉では自分一人の面倒だけを見ればいいので。かなりゆったりしています。白眉の5年間で出さなくてはいけない書類も年に一度の報告書程度なので、かなり自由度が高いと聞きました。

※訂正
当初《大学は、講師→助教(注・旧称は助手)→准教授(注・旧称は助教授)→教授と階級があるんですが、その下から2つめです。》と記載しましたが、正しくは《大学は、助手→助教→准教授(注・旧称は助教授)→教授と階級があるんですが、その下から2つめです。》です(「学校教育法第九十二条」第6項〜10項参照)。謹んで訂正させて戴きます。ご指摘戴いた皆さまありがとうございました。(オンライン編集部)

――博士が今回、准教授ではなく助教になったのはなぜですか。

【前野】白眉に応募する段階で、自分で助教を選びました。准教授のほうが給料は多いわけですが、自分の研究業績を考えると、助教で応募したほうが合格する可能性は高いと考えました。給料の額はけっこうどうでもよくて、月40万円ももらえたら十分で、それよりも何がなんでも研究者生活を次につなげたいので、可能性が高いほうを狙いました。

――定期収入を得たことで、今まで我慢していたけれどできるようになること、したいことは何でしょう。

【前野】とりあえず親に100万円、「今までごめん」とあげたいなと思ってます。それでも全然少ないんですけど。自分はおカネを持つと使ってしまう可能性が高いので、最初は親に多めに渡して、自粛した生活を送ろう、と。

――なるほど、著書『孤独なバッタが群れるとき』194頁「アゲハの誘惑」の巻(注・ポスドクとなり月給36万円を得るようになったとたん、夜の蝶とのクラブ活動にいそしみすぎて「自分がダメ人間の要素満載であることを自覚した」一件)ですね。

【前野】京都、危険です。魅惑の土地なので。

――あれ? モーリタニアじゃなくて京都に住むんですか。

【前野】作戦としては、バッタが出る9月から12月の3~4カ月はモーリタニアでフィールドワークをして、残りを京都で研究することに当てる、と。これがいちばんバランス良く、効率よく元気よく研究ができます。論文も自由に書けます。願ったり叶ったりの布陣です。

――モーリタニア国立サバクトビバッタ研究所の席はどうなるんですか。

【前野】そこはけっこうババ所長の一存で自由に決めてもらえるので。自分はもう所長の家族みたいにしてもらってるので。

――ババ所長は博士が白眉に受かったこと、何て言ってましたか。

【前野】「おおお、でかした!」と、「なあ、ほらみろ、言ったとおりだろう! 頑張った甲斐があったなあ!」とものすごく喜んでくれました。自分が無収入のままで、どこにも引っかからないのを見ていて、ババ所長はすごく怒ってくれていたんです。「なぜ日本はウルド・コータローに気づかない。コータローは、家族も友人も犠牲にしてこの厳しい環境下でやってくれている。なぜ日本の人はコータローを支援しないんだ。日本はモーリタニアに何億円も援助をしてくれている。コータローがここにいるということは、それ以上の価値があるというのに。コータロー、必ずいつか誰かがお前を発見する」と言ってくれていたんです。ババ所長に京都大学や白眉を説明するときに、去年もノーベル賞受賞者が出た大学で、白眉はものすごく倍率が高くて……と話したんですが、所長は「コータロー、お前はそれに値するぞ」と言ってくれたのが、ほんとうに嬉しかったです。

――「家族みたい」にで思い出したのですが、ご結婚の予定は。

【前野】ご結婚の予定は、まったくないです。なんかちょっとこの1年で変なんです。この1年で、人と話すのが嫌いになったというか……。

――え、どういうことですか?