内閣法務局長官交代は異例の人事

自国に対する他国からの攻撃に対して、自国を防衛するために必要な武力を行使することを「個別的自衛権」という。これに対して「集団的自衛権」は、同盟国が攻撃されるか同盟国でなくても、自国の安全保障上不可欠な国の求めに応じて共同軍事行動を取ることである。

集団的自衛権は国連憲章の第51条で国連の加盟国に認められている自衛権の1種だが、日本政府は「国際法上、主権国家であるわが国も集団的自衛権は有しているが、それを行使することは憲法第9条が容認する自衛権の限界を超える」という立場を取ってきた。憲法解釈などに関する政府の統一見解を首相や大臣に代わって答弁する歴代の内閣法制局長官も、これまで政府と同じ答弁を繰り返してきた。

しかし憲法改正を政権目標に掲げる安倍晋三首相の再登板により、集団的自衛権の行使容認に向けた動きが活発化している。

安倍首相は、もともと集団的自衛権の行使容認派で、「憲法第9条の改正」でこれを実現しようと目論んでいた。だが、憲法改正の手続きを緩めるために、先行して憲法96条を改正することは難しいと判断し、路線を切り替えた。また連立を組む公明党の反対も意識して、憲法9条の改正ではなく、憲法解釈で集団的自衛権の行使容認を目指すことにしたのだ。

そのために従来の政府解釈から踏み出せない内閣法制局長官のポストを、通常の人事異動とは異なる今夏の8月に替えた。新任の小松一郎内閣法制局長官は元駐仏大使の外交官で、安倍首相と同じく「現行憲法で集団的自衛権の行使は可能」という考え方の持ち主だ。

「法の番人」と言われる内閣法制局は文字通り内閣に設置される機関で、内閣法制局長官は内閣、すなわち総理大臣が任命する。内閣法制局長官は、それまで法務省や財務省、総務省、経産省出身の内閣法制次長から任命されるのが通例だったことからしても、今回の長官人事は“異例”なのだ。