失敗したら、ライオンの両目を睨(にら)め

「ソフトバンクを5000社に増やす。自己増殖、自己進化するんだ」

ソフトバンク社長 孫正義氏

私は常々そう社員にいっています。組織もある程度大きくなり、少しは余裕も出てきました。でも問題はここからです。

私は19歳で起業の決意をしたときから「1兆2兆まではいける。社員1万人、10万人規模までならいける」と思っていました。まだ社員数がゼロにもかかわらず「俺がやるんだから」と妙な自信だけはあった(笑)。ただコケるとしたらその後だ。次の代へのバトンタッチができなければ、その時点で会社は終わる。そう思ってきたのです。

ソフトバンク最大の危機は、いまこの瞬間にこそあります。私がバトンを次のランナーにきちんとタッチできなければ、求心力は失われ、組織は失速するでしょう。そのために私は後継者育成のためのスクール、ソフトバンクアカデミアを創設しました。バランスシートやキャッシュフローなど技術面から会社経営を学ぶのもいいですが、経営者になるにはそれだけでは足りません。営業や数字からでは学べないこと、おもに危機に直面したときの判断能力を鍛えてほしいのです。

そもそも私は経営者としてこれ以上ないくらい失敗を繰り返してきています。まさにおびただしい数の傷を脛(すね)にもっているわけで、だから新規事業に失敗した社員のことも無暗(むやみ)には怒れないんです。

普通の会社だと、「失敗=出世の道からアウト」となるのかもしれないけれど、うちの会社では社長自らが誰よりも失敗の数も多いし、失った金額も大きいときているから、人のことをいえないんです。報告を受けた瞬間は、「馬鹿野郎!おまえは阿呆か!」と怒鳴るんだけど、心では「しゃあないな」となってしまう。