しかしこれからのソフトバンクはそうもいきません。私が起業した頃に比べれば、会社の規模も勝負のレベルも格段に大きくなっています。1つの事業に失敗すれば損失額も軽く100億、1000億レベルになるでしょう。挑戦に失敗はつきものですが、せめてその失敗の規模を小さく終わらせてほしい。できれば危機の状態から早く脱してほしい。私の恥ずかしい失敗の数々から、後継者候補たちには危機克服の解決策を学んでいってもらいたいのです。

1999年、東京電力とマイクロソフト、ソフトバンクの3社で、スピードネットという合弁会社をスタートさせました。日本で本格的にブロードバンドが始まったのは2001年。それに先立つ2年前に、当時主流だったダイヤルアップ接続に対抗して、無線による定額制インターネット接続を始めようとしたのです。

しかしこれは大失敗しました。いま思い出しても恥ずかしく、経営者として未熟だったというほかありません。

ベンチャー企業にはありがちのことです。技術の少し先が見えてアイデアがあって、「誰かが始める前に自分が」と先走りしてしまい、その結果まだ需要が育っていないマーケットで失敗してしまうのです。このときの私は、撤退の大切さを痛感しました。「これはやばい」となったときに、そのやばさの度合いが限度を超える前に意思決定できるかどうかが大切だと。博打を例にするのは気が引けますが、よくないカードが続いたときに、「もう少し待てば確率がよくなるはずだ」と無理して続ける人がいますよね。しかしそれは完全に間違いです。過去は確率にまったく関係ありません。「もう少し我慢すれば状況がよくなるはず」なんて、非論理的で数字の裏づけのない占いを信じている人は起業しないほうがいい。経営者としての才能はゼロですから。