「犯罪以外の騒動」に分類し直す

労働党政権が1990年代の終わりに犯罪件数の数え方に関する規則の第1回目の変更を行ったのは、犯罪かどうかについての「立証責任」を軽くするためだった。つまり、届け出た人物の話に疑わしい点があっても、はっきり証明できない場合は犯罪が起こったとみなすという意味だ。すると当然ながら、警察はより多くの事態を犯罪として認知しなければならなくなった。

しかしそれと同時に、特定の犯罪を減らすための目標が掲げられていたことから、「罪種の分類基準の変更」がなされる場合があった。たとえば、ある警察署の統計データによると、(件数の削減目標が設定されている)「車上荒らし」は27%減少した一方で、(削減目標が設定されていない)「車両への干渉」は407%増加していた。

背中を刺された人が発見された場合、犯罪が起こったことはほぼ間違いない。だが、正面を刺されている人だったら、自分で刺した可能性もあるのではないだろうか。認知件数を減らすための目標設定は、犯罪の認知を減らそうとする明確な動機づけになる。そうして、対応した事態を「犯罪ではない」と記録するか、犯罪と定義される事態以外のなんらかの騒動に分類すれば、犯罪の認知件数を減らせるのだ。

こうしたやり方を、犯罪学者たちはウサギを袖口(cuff=カフ)に入れて消す手品師の技にちなんで「カフィング」と呼んでいる。

「目標設定」はデータを歪める原因になる

2002年にようやくこの問題への対処に乗り出した労働党政権は、立証責任の重さを元に戻すために、認知件数の数え方の規則を変更した。しかしそれでも、犯罪件数の削減目標や検挙率向上の目標があるかぎり、犯罪を「カフィング」しようとする動きは止まらなかった。

警察でようやくトップダウン方式による数値目標の設定が完全に廃止されたのは、2011年のことだった。2014年には、この問題に関して、政府が委託した報告書が少なくとも12件提出され、議会による調査が行われたことから、犯罪認知件数データの信頼性は地に落ちた。

最終的に、英国統計理事会(UKSA)は、犯罪認知件数データを「国家統計データ」リストから外した。だがそれでも、このデータは犯罪に関する主要な元データとして、いまなお利用されている。2021年には、警察の実績評価の指標として、犯罪認知件数が再び使われるようになった。

同年の7月に導入された「全国犯罪取締指針」に使われている、殺人件数と銃器による犯罪件数はまさに、警察犯罪認知件数データからのものだ。警察を傘下に置く内務省は、この指針について「数値目標ではない」とわざわざ強調しながらも、それと同時に、「3年以内に大幅な改善を期待する」とも述べている。

これは、目標以外の何ものでもない。ほんのわずかな圧力さえも、犯罪認知件数データを歪めかねないのだ。