「犯罪」の定義とは何か

「警察犯罪認知件数」とは、一定の期間と所定の場所において、犯罪が行われたと警察がみなした件数を記録したデータのことだ。イングランドおよびウェールズでは、1857年から収集と公表が行われてきたことから、このデータは「我が国で最も古くから集められている行政データセットの一つ」と呼ばれている。

だが、この犯罪認知件数のデータにも問題がある。いうまでもないことだが、犯罪というのは自動的に犯罪とみなされるわけではないという点だ。その出来事が犯罪に見えるか、またはそう考えられるかを判断する裁量を与えられた警察官たちによって、犯罪と認知されるのだ。

1980年代の終わり、保守党政権はビジネス界の教訓を公的部門に取り入れる実験を試みていた。警察もこの改革の対象となり、その仕事ぶりが細かくチェックされた。目標は明確には設定されなかったものの、この「ビジネス界に近い」体制では、記録に基づいた犯罪件数を抑えるための動機づけがなされた。

現認しなければ「犯罪があった」とは軽々に認定できない

1997年に誕生した労働党政権は、目標を定めた。そうして、強盗、凶悪犯罪、自動車関連犯罪の件数を減らすために5年間で達成すべき目標が決められた。この取り組みだけでも、犯罪認知件数は削減されたはずだ。

トニー・ブレア(1997年から2007年までイギリス首相)
トニー・ブレア(1997年から2007年までイギリス首相)(写真=Pavel Golovkin/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

だが、それに加えて、犯罪件数の数え方に関する新規則もほぼ同時期に導入された。それによって、罪種を分類する際の警察官の裁量の範囲が広げられた。

何かが犯罪であるかどうかについて議論の余地があるというのは、いったいどういうことなのかと、読者のみなさんは不思議に思われるかもしれない。

たとえば、犯罪が行われたとされる現場に、警察官が呼ばれたとしよう。現場にいる男性は、「路上強盗に携帯電話を奪われた。犯人は逃走してしまい、しかも残念なことに目撃者はいなかった」と語った。そのような状況で、警察官は犯罪が起こったかどうかを判断しなければならない。

警察官自身が目撃したわけではないので、入手可能な証拠と確実性の度合いに基づいて判断を下す必要がある。確認すべき点は、「被害者の男性が負傷しているか」「動揺しているように見えるか」「現場は路上強盗が多発する場所としてよく知られているのか」だ。

というのも、「この人物は単に携帯電話を紛失しただけだが、保険会社に不正な請求をするために、警察が発行する盗難届出証明書を入手しようとしている」可能性もあるからだ。