その点、僕自身にも経験があります。政治の世界に入って一番驚いたのは役人の資料の分厚さ、説明の長さでした。大阪府知事に当選直後、東京都知事だった石原慎太郎さんにご挨拶に行きました。すると石原さんはこう忠告してくれたのです。

「橋下さん、もう気づいていると思うけど、役人の説明は長い。うっかりすると説明まみれ、資料まみれになる。そのまま役所の考えに取り込まれてしまう首長も多い。よくよく注意しなければならない」

資料
写真=iStock.com/megaflopp
※写真はイメージです

そのこともあって、僕も「資料はA3表裏1枚」を上限に定めました。最初は役所の人間はびっくりしていましたね。それまでA4で何十枚もの資料をつくってきた彼ら、彼女らはその事案一つに集中して関わっているかもしれませんが、首長にとってそうした事案は各部署から持ち込まれて膨大にあるわけです。ですから「一番重要なエッセンスだけ抽出してほしい」というのは首長の切なる願いです。

ただ、こうした「対トランプ作戦」は何も安倍さん一人で編み出したものではありません。その背後には複数の政治家や官僚からなる「チーム安倍」が控えていた。となれば仮にトップが代わっても、かつてのチーム安倍が再集結すれば、新たな日米関係を構築することは可能なはずです。

安倍さんのようなカリスマ的リーダーを失うと、「代わりの人物がいない」と周囲はうろたえがちですが、政治も会社経営も「組織」で行うものです。大阪府や大阪市の行政においても、僕から松井一郎さん、吉村洋文さん、横山英幸さんとバトンを継承しましたが、トップの顔ぶれが代わっても、当初のチーム橋下とその継承チームがしっかりと脇を固めてくれたおかげで、様々な課題を乗り越えることができました。

ただし、間に政権交代が挟まると厄介です。旧民主党政権はあらゆる点で自民党政権の逆張りをし、スタッフも入れ替えました。内政面で独自色を打ち出すには、そのような選択があってもいいと思います。しかし相手国があり、継続性を求められる外交、特に日米外交でそれをやってしまったから、大混乱に陥りました。ですから仮に今後政権交代があったとしても、同じ轍を踏まぬよう、外交政策は安倍路線から大きく逸脱しないようにするのが肝要です。

カネにセコい人間は、人間的度量も狭い

さて、「チーム安倍」を率いるリーダーには、「カネにきれいな人」がふさわしいと述べました。これは例えば、いま世間を騒がせている政治資金パーティーをめぐる「裏金問題」とは縁がない人、ということです。これはコンプライアンス的にどうこう言う以前の問題で、「カネにセコい人間は、人間的度量も狭い」という人類普遍の経験値に基づくアドバイスです(笑)。

といってもトランプさん自身、所有資産価値を過大に申告し、不正な利益を得たことで3億5490万ドルの罰金支払いを裁判所から科された経験があるわけですから、必ずしも「カネにきれい」というわけではない。しかし、これだけ巨額だと、少なくともセコくはないですよね。

むろんスケールが大きかろうと脱税は絶対によくない。しかし今の日本の国会議員たちが、政治資金から裏金をつくって好き勝手に使っている姿を見ると、あまりにセコくて情けなくなります。国会議員になったとたんに高級飲食店ばかり使うようになるとか、舞い上がってしまうような政治家に、トランプさんの交渉相手が務まるとは思えません。

政治は「組織」で行うもの。しかし、各国首脳と向き合う国際舞台では「個性」と「個性」がぶつかり合います。自らの利益を超えて相手の望むものを理解し、信頼をベースにしながらも、怜悧なビジネス取引ができる人。そんな個性豊かなダイナミックな人物こそがトランプさんと対峙できるのです。どこかにいませんかね。

(構成=三浦愛美 撮影=的野弘路 写真=時事通信フォト)
【関連記事】
橋下徹「お願いベースの震災対応から考える憲法・緊急事態条項の作り方」
「もしトラ」ならプーチン大統領が大喜び…トランプが「ウクライナ戦争は1日で終わらせる」と豪語するワケ
堂々とウソがつけないと国会議員は務まらない…裏金問題が「自民党の完全勝利」に終わった根本原因
私は「5年間30万円の記載ミス」で都知事を辞任した…裏金問題での「国会議員の開き直り」に抱く強烈な違和感
これだけは絶対にやってはいけない…稲盛和夫氏が断言した「成功しない人」に共通するたった1つのこと