医師、弁護士と並んで「日本の三大国家資格」といわれる公認会計士。ここ数年、公認会計士試験の受験者は右肩上がりに増えている。その中でも全合格者の6割以上を輩出しているのが、公認会計士試験受験指導のトップ校で東京・新宿に本拠を置く「CPA会計学院」だ。ビジネスパーソンが今後のキャリアを考えるとき、公認会計士試験の受験は選択肢の一つとなりうるのか。同校を運営するCPAエクセレントパートナーズ経営陣に、公認会計士試験“社会人受験合格者”のその後のキャリアについて聞いた。
社会人受験のメリット・デメリット
社会人受験者が難関の公認会計士試験を突破したとして、それからのキャリアはどうなるのだろうか。
「社会人の場合、公認会計士資格も取得する年齢によって社会的ニーズや活かし方が変わってきます」と指摘するのは、CPAエクセレントパートナーズのキャリア事業本部長にして、公認会計士試験の受験生や合格者の就職・転職を支援するCPAキャリアサポート株式会社代表取締役でもある中園隼人氏だ。
「『資格さえ取れれば何とかなる』と考える人が多いのですが、公認会計士資格といえども万能ではありません。現実には『資格 × これまでのキャリア』あるいは『資格 × 若さ』という掛け算が重要になってきます。学生であれば『資格試験に合格すること』を第一の目標としても問題は少ないですが、社会人の場合は先々のキャリア設計を踏まえて受験するかどうかを判断すべきでしょう」(中園本部長)
公認会計士の場合、40歳を過ぎて合格した場合でも中小の監査法人などでの採用があるものの、試験合格時の年齢が高いとキャリアへの反映が難しくなる場合があるという。
「私が知っている例では、外資系システム会社でシステムエンジニアとして、すでに年収2,000万円近くを稼いでいる人から、『公認会計士の資格を取ったらプラスになるだろうか』という相談を受けたことがあります」(同)
結論から言えば、すでに2,000万円の年収を得ているITエンジニアが公認会計士資格を取得しても、それにより年収が3,000万円に増えるといったことはまずない。むしろ公認会計士の資格を得るためには、合格前後に3年以上の実務経験が必要となるため、一般的には合格後、監査法人に勤めることになり、その場合の初任給はおおむね「500万円強プラス残業手当」からのスタートだという。一時的に大きく収入がダウンする上、ITエンジニアとしての本業から何年も離れるデメリットも考えねばならない。
「『受験勉強と資格取得のための下積み期間に5年かそれ以上を費やすのであれば、現職でキャリアアップを図る方が効率的ですよ』と助言したところ、その方は悩んだ末、公認会計士を目指さないと決意されました。結果的にご本人の夢を砕くことになってしまいましたが、現実を知ることは避けて通れません」(同)
「資格さえ取れればなんとかなるだろう」という考え方は、優秀な人ほど陥りがちな罠でもある。社会人が多大な時間的犠牲を払って公認会計士試験突破を目指すのであれば、まずは「自分が今後どのようなキャリアを目指していきたいのか」を踏まえ、受験のメリット・デメリットを明確にした上で挑戦を決めることが望ましい。
スタンダードなフィールドは7つ、多様化する公認会計士のキャリア
公認会計士試験は難関であり、一般的なイメージとしては「合格すれば専門職である公認会計士として働くもの」という印象が強い。
「実際、合格者の約8割は『BIG4』と呼ばれる四大監査法人に就職し、さらに1割程度が準大手~中堅~中小監査法人に就職します。つまり合格者全体の9割がどこかしらの監査法人に進むことになるわけです」(同)
合格後に監査法人に就職する理由は、公認会計士の資格を取得するのに3年間の実務経験が求められるためだ。金融機関や事業会社の業務でも実務経験と認められるケースもあるが、確実なのはやはり監査法人で働くこと。ただし3年の実務経験を経て公認会計士資格を取得した後の進路は、監査法人だけではない。
「資格取得者の進路は大きく会計業務を専門とするプロフェッショナルファームとそれ以外の一般事業会社に分かれます」(同)
プロフェッショナルファームとしては第1に監査法人、第2に会計事務所・税理士法人があり、第3に会計コンサルティングファームがある。
一般事業会社は企業のステージにより、第1が上場企業を中心とした大企業、第2に資金調達をしてIPOを目指すスタートアップやベンチャー企業、第3が外資系企業となる。
「一般事業会社での第4の進路として銀行、証券会社、保険会社、投資ファンドなどの金融機関に進むケースがあります。例えば証券会社なら新規上場(IPO)の引き受け業務やM&Aの担当といったポジションがあり、コンサルティング的な業務も多いのです。その意味で公認会計士にとって金融機関は、プロフェッショナルファームと一般企業の中間的なキャリアといえます」(同)
| 1 | プロフェッショナルファーム | 監査法人 |
|---|---|---|
| 2 | 会計事務所・税理士法人 | |
| 3 | 会計コンサルティングファーム | |
| 4 | 一般事業会社 | 上場企業を中心とした大企業 |
| 5 | スタートアップやベンチャー企業 | |
| 6 | 外資系企業 | |
| 7 | 銀行、証券会社、保険会社、投資ファンドなどの金融機関 |
CPA会計学院では、以上7つの進路をスタンダードなフィールドと呼んでいるが、近年は公認会計士資格保有者の働き方も多様化している。
「M&A仲介会社でフロントとして営業を行う人、資格取得支援スクールで講師を務める人、さらにはYouTuberなどインフルエンサーとして、例えば『公認会計士にして寿司職人』といったユニークな肩書で活躍する道も、スタンダードとは言えませんが出てきています」(同)
監査法人以外の進路として人気が高いものに、ゴールドマン・サックスなどの外資系投資銀行がある。日系投資銀行でも野村、大和、日興などが投資銀行を持っており、PE(プライベート・エクイティ)ファンドやベンチャーキャピタルに進む人もいる。
監査法人であっても、監査を行うだけが仕事ではない。系列のFAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)部門でM&Aの支援や企業再生、フォレンジック(不正調査)などを手掛ける人もいる。そこでは公認会計士は企業財務のデューデリジェンス(買収や投資における企業の適正評価)やバリュエーション(企業価値算定)を担当するケースが多い。
「学生の場合、就職活動が行われる3年生までに公認会計士試験に合格し、その実績を武器に外資系投資銀行や総合商社への就職を目指すケースもあります。『もともと英語や国際ビジネスが好きで外資系企業に就職したかった』とか、誰もが知っているような有名企業に憧れて、『そういう企業に行きたかったので公認会計士の資格を取りました』という人もいます」(同)
大切なのは「目指すポジションのために資格を取る』という考え方
「会社員として働きながら公認会計士試験に合格した20代後半~30代の人たちは、独立志向が強い傾向があります。また、資格を活かしてブランド企業や総合商社など、新卒では入社できなかった大企業へ転職してキャリアアップを図る人もいれば、スタートアップに参画してCFO(最高財務責任者)となる人もいます」(同)
実務経験を得るための監査法人への就職でも、社会人合格者はBIG4より中小や中堅を選ぶケースが多い。小規模な監査法人では入社初期から幅広い業務に挑戦できるため、実務経験を早く積むことができる。
「こうした7つのフィールドのどこを経由して、最終的にどこに着地するかは、その時々の時流によっても変わってきます。例えば2017~2019年はIPOマーケットが盛り上がっており、スタートアップやベンチャーに飛び込む人が多くなりましたし、新型コロナ禍ではフリーランスや独立志向が高まり、今は再び大手企業で働きたいと考える人がやや増えているといった具合です。
いずれにしても大切なのは、『目指すポジションがあり、そのために公認会計士の資格を取る』という考えを持つことです。確かに公認会計士の資格を持っていれば、『なんとなく』でも生きていけるという面はありますし、24、5歳でその先のキャリアを描ききれている人は少ないでしょう。でもカーナビがあっても目的地を入力しなければ行きたい場所にはたどり着けないように、充実した社会人人生を送るためには、たとえおぼろげでも自分なりのキャリアパスを描いておくことが大切です」(同)
試験挑戦前にすべき「キャリアの現状分析」
若い合格者たちの課題が将来のキャリアパスを描けていないことにあるとすれば、社会人になってから合格した場合の問題は、年齢のハンディである。
「例えば33歳で公認会計士試験に合格したとすると、23歳で合格した人とは10歳の差があります。それでも監査法人に入社すれば、年齢に関係なく同じスタートラインに立たされます。30代で入社して20代の上司の部下になるということもありえますし、『監査法人における若手の仕事は体力勝負』といわれることもあります。『そうした試練を超えてでも自分はこうなりたい』という明確な目標がある人が強いといえます」(同)
社会人の場合、キャリアチェンジのためだけでなく、「現在のキャリアに公認会計士の資格というプラスアルファを加えてブーストしたい」という目的で資格を取る人もいる。
「社会人が公認会計士試験に挑むのであれば、まず自身のキャリアの現状を専門家に分析してもらうことをお勧めします。そうしたキャリアサポートが受けられることもCPAエクセレントパートナーズの特長です。社内にキャリアエージェントとして就職・転職支援を行う専属スタッフが多数在籍し、受講生のキャリア設計をサポートする仕組みを持つ資格教育機関は、日本ではほかに例がないと自負しています」
中園本部長はそう胸を張る。資格取得までの受験指導にとどまらず、受験を継続するかどうかの相談や合格後のキャリア選択についても支援体制を持つ資格スクールは、数が限られるのが現状だ。
公認会計士試験の社会人受験に年齢のハンディが付きまとうのは事実である。一方で、社会人経験がない若い受験者、合格者が持たない“ビジネスパーソンとして働く”という経験や観点というアドバンテージがあるともいえる。そして、公認会計士のキャリアの多様性は、ビジネスパーソンがキャリア形成を考える際のヒントとなるところがあるのではないだろうか。公認会計士試験の受験を検討するにしてもしないにしても、ぜひ参考としてほしい。
(取材協力=中園隼人 執筆=久保田正志)