プレジデント総研「人事・ダイバーシティの会」が定期的に開催している、次世代人材育成などをテーマとした「研究会」。その第4回が、アフラック執行役員の橋本ゆかりさんを迎えて開催されました。第一部では、橋本さんが同社のダイバーシティへの取り組みやその成果について講演。第二部では参加者によるグループディスカッションが行われました。

(出演者)
アフラック生命保険 チーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(CDIO) 執行役員
橋本 ゆかり(はしもと・ゆかり)

プレジデント ウーマン編集長
木下 明子(きのした・あきこ)

数値目標を定めて6つの取り組みを推進

第4回目となる研究会は、アフラック執行役員の橋本ゆかりさんによる、「ダイバーシティを変革のドライバーに」と題した講演から始まりました。同社では1997年、生命保険業界で最も早く女性役員を輩出。早くから女性活躍をはじめとするダイバーシティ推進に取り組んできたといいます。

創業当時から、入社後の役割や教育、評価などに男女差はなく、総合職と一般職の区別もなかったそう。女性が活躍して当たり前の風土があり、営業現場でも1998年には女性支社長が2人誕生しています。

「女性活躍に関してはかなり進んでいると自負していましたが、だんだんと女性管理職比率の企業平均との差が縮まってきて、そのデータを見たトップが衝撃を受けたのです。そこで、2014年から本格的に女性活躍推進に取り組み始めました

当時掲げた数値目標は2つ。ひとつは、2020年末までに指導的立場に占める女性社員割合を30%以上にすること。そしてもうひとつは、2025年末までにライン長ポストに占める女性割合を30%以上にすることでした。これらを実現するため、「女性活躍推進プログラム」として下記の「重要6領域」を策定し、同時進行的に進めてきたそうです。

【アフラックの女性活躍推進プログラム】
① 経営トップのコミットメント
② 管理職のアカウンタビリティ
③ 推進体制の強化(社長や役員からなるダイバーシティ推進委員会を設置)
④ 女性のキャリア開発・育成・登用
⑤ 多様な働き方の促進
⑥ 業務プロセス・評価プロセスの見える化

このうち管理職のアカウンタビリティについては、「管理職が女性部下の育成に強く関与するような仕組みをつくりました」と橋本さん。具体的には、全管理職を対象にダイバーシティマネジメント研修を実施しているほか、女性部下に対する個別育成計画の策定・実行や個別面談も推進。取り組みが定着してからは、対象を女性部下限定からすべての部下へと拡大したそうです。

アフラック生命保険 チーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(CDIO) 執行役員 橋本ゆかりさん
撮影=小林久井(近藤スタジオ)
アフラック生命保険 チーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(CDIO) 執行役員 橋本ゆかりさん

女性のキャリア開発と働き方改革を同時に

また、女性のキャリア開発・育成・登用に関しては、公募されているポストに自ら応募できる「ジョブポスティング」や、地方採用の社員が転居することなく首都圏の部署にフルリモート勤務できる「リモートキャリア制度」、期間限定で採用地とは違う地域で勤務できる「一時転勤制度」などを導入しているといいます。

「さらに、各階層で女性社員向け研修を実施しており、社長をはじめとした経営陣も積極的に関わっています。例えば管理職候補者向けのものでは、役員へのプレゼンテーションをはじめ、社長や役員がスポンサーやメンターを務める制度などもあります。2018年には『AWLT(Aflac Women Leadership Training)』という活動も開始しました」

AWLTは女性管理職のネットワーク構築を目的とした活動で、今では社内にいる150人の女性管理職のうち100人がAWLTのメンバーなのだとか。部長や課長職の女性が集まり、自ら企画して講演会や情報交換会などを開催しているそうで、橋本さんは「新任の女性管理職にとって心強いコミュニティーになっている」と語ります。

同時に、女性だけでなく多様な人材が活躍できる環境をつくろうと男性育休の取得も推し進めた結果、2016年に1.6%だった取得率は今や100%に。こうした成果が評価され、2019年にはイクメン企業アワードでグランプリを受賞しています。

そのほかでは、多様な働き方の促進も強力に推進。働き方改革として「アフラック Work SMART」を策定し、時間や場所にとらわれない働き方をするための環境整備を進めてきたといいます。

これによって「リモートワークとオフィスワークそれぞれの価値を生かして、組織成果を最大化する働き方が実現しました」と橋本さん。では、こうした取り組みはダイバーシティ推進にはどんな効果をもたらしたのでしょうか。

プレジデント ウーマン編集長 木下明子
撮影=小林久井(近藤スタジオ)
プレジデント ウーマン編集長 木下明子

女性活躍や組織変革に大きな成果が

2014年に掲げた2つの数値目標のうち、「2020年末までに指導的立場に占める女性社員割合を30%以上にする」は2019年に1年前倒しで達成。一方の「2025年末までにライン長ポストに占める女性割合を30%以上にする」は、2022年末で25.3%となり、2022年の目標としていた25%を達成したそうです。

「今年1月には、新任の女性役員が2人誕生しました。いずれも仕事と育児を両立している女性です。加えて、20〜30代の女性社員の離職率が大きく低下したほか、育児を理由とした時短勤務の減少、社員のエンゲージメント向上といった効果もありました。多方面からダイバーシティを推進してきた結果、当社は確実に変わりつつあり、ダイバーシティが企業変革のドライバーになっていると実感しています」

2014年から始めた取り組みが実を結びつつあるアフラック。ただ、今後取り組んでいくべき新たな課題も見えてきたといいます。近年では男女とも管理職志向が低下傾向にあるそうで、理由として最も多かった回答は「家庭との両立が難しいと感じるから」。

「これには2つの要因があるのではないかと考えています。ひとつは、在宅で仕事ができるようになったことで所定外労働時間が増えたこと。もうひとつは、共働き家庭の増加で男性も家庭での時間を大切にしたいと考える人が増えたのではないかと推測しています」

さらに、ライン長ポストに占める女性割合についても、2025年末の目標である30%を達成するにはさらなる加速が必要とのこと。全社で見ると25.3%を達成しているとはいえ、部門によって大きな差があるため、今後はこの差を解消していきたいと語ります。

「意思決定の場における多様性を確保すべく、各部門で女性ライン長を偏在なく育成・配置していきたいと思っています。人財マネジメント戦略は、当社の中期経営戦略の第一の柱。これを成功に導くためにも、引き続きダイバーシティ戦略を加速させていきます」

経験と実績に基づいた橋本さんの言葉は、人事・ダイバーシティ担当者の皆さんにとって大いに刺激になった様子。引き続き行われた質疑応答でも、「社員から時短勤務拡大の要望があったが、早期復帰を促すにはどう説明したらいいか」「リモートワークとオフィスワークの適正なバランスは?」「役員によるスポンサー制度を実現するうえで必要な行動は?」など、たくさんの質問が寄せられました。

「管理職志向の低下」についての画面
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

人事・ダイバーシティ担当者への助言も

その後、橋本さんと木下編集長も加わってグループディスカッションが行われました。参加者は2つのブレイクアウトルームに分かれ、今回の講演内容や自社のダイバーシティの問題点について意見を交換。およそ45分間にもわたって白熱した議論が続きました。

アフラックの取り組みについては、数値目標の達成に向けて的確な施策を打ったこと、それを成果に結びつけたことに感嘆の声が多数。リモートワークとオフィスワークのバランスも議題に上り、「リモートワークにしたくてもできず、不公平感を覚える社員が出始めている」など、各参加者とも苦労している様子がうかがえました。

また、部下育成への上司のコミットメントやダイバーシティ推進への経営層のコミットメント、若手の離職率、男女の賃金格差開示などについても、多くの参加者が課題感を抱いていました。

これらに対しては、橋本さんや木下編集長からのアドバイスも。例えば経営層のコミットメントに関しては、橋本さんから「競合他社などのデータをエビデンスとして説得に当たってみては」と助言がありました。

グループディスカッションのようす
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

最後に、木下編集長が今回の研究会を総括。「日本経済の復活には、人口の約半分を占める女性の活用が不可欠です。今後も日本のダイバーシティ向上に力を尽くしていきたいと思います」と語りました。

木下編集長は、1月に『図解!ダイバーシティの教科書』と題した著作を発表。また、プレジデント総研では目下、「若手社員向けキャリアデザイン研修」を作成中とのことです。こうした取り組みとあわせて、この研究会でも、今後もダイバーシティ推進や女性活躍施策に役立つ情報を続々と発信していくそうです。