畑川さん●大手通信会社勤務。子ども2人を育てながら、週末はグロービス経営大学院で学ぶパワフルマザー。
黒川さん●大手IT企業の広報部に勤務のかたわら、プロボノ活動にも精力的に取り組む1児の母。
末吉さん●大手IT企業勤務。生産性向上のため、自分とメンバーのスキルアップに余念がない。
竹歳さん●歯科医師と、医療コンサルという2つの仕事をもつ。プライベートでは2人目を妊娠中。
※グロービス経営大学院公認クラブ「グロービス・ワーキング・マザー・クラブ」の皆さんにお集まりいただきました。
【竹歳】私は歯科勤務医師をしながら、医療系のベンチャーで医療コンサルにかかわる仕事もしています。医師は、患者にどんな治療をするか、一人で判断することが多い仕事です。不必要な高額医療を施すなど、国家の医療費の無駄を招き、国全体の生産性を下げることにもなりかねない。そこに課題を感じています。
【末吉】大手IT会社でセキュリティコンサルティングの仕事をしています。私は、2つのアプローチで生産性を上げる工夫をしています。1つは、スキルアップ。MBA取得のためにグロービス経営大学院で学びつつ、メンバーのスキルも上げるため、勉強会を主宰しています。もう1つは、仕事に段取りを付けることです。
【黒川】私は、大手プロバイダーで広報の仕事をしています。生産性アップへの取り組みとしては、「前提を疑う」ことを心がけ、この会議は本当に必要か、この人が出る必要があるかなど、会社に意見したりしています。
【畑川】大手通信会社で部署の生産性向上のためのプロジェクトを推進しています。
【松崎】大手IT会社の経営企画部で役員付きのスタッフをしています。生産性について思うのが、私はスタッフなので長時間働くほど、会社としては利益が下がるということ。一方で、M&Aの実行支援など売り上げに貢献する仕事をすれば生産性は上がる。そうした攻めの仕事を増やすべきではないかと思います。ルーティンワークは外注して社員は、より考える仕事に集中すれば生産性は向上するのではないかと。
【末吉】私は人事評価を変えるべきだと思います。プロセスも評価すると言いながら、実質、今はアウトプットしか見られていません。すると、時間の制約があるワーキングマザーには、残業のあるプロジェクトは任せられず、裏方に回されがち。これでは働きがいが失われ、生産性もかえって下がってしまいます。管理職が人材の評価や育成などマネジメントに時間が割けていないことも問題です。
【黒川】議事録などの資料を何重にもチェックするなど、無駄な業務も多すぎると思います。
【畑川】日常的なコミュニケーションが取れていれば不必要な会議もたくさんありますよね。
【松崎】会議前の「根回し」も時間がかかる。直接関係のない幹部全員に等しく回る必要があるのか、と思います。それと完璧主義も問題。我々の会社も、クライアントのいる業務に少しのミスがあってはいけないと、「一般車」を求められていても「ポルシェ」を売る傾向があります。
【黒川】また、上司も「完璧」を目指す人を評価しがちです。だから残業は何時までとルールを作っても、みな、家に仕事を持ち帰って働いてしまう。それから、年配の上役は「話せばわかる」と、すぐ飲み会を開きたがるのもどうかと思います。飲み会に参加しにくい女性社員などが情報に乗り遅れることになりかねません。
【畑川】個人で生産性を上げるために、マルチタスクをして、家事代行などを頼んでも、限界があります。生産性は、ある程度までいくとかえって下がるので。
【松崎】どうしても、ミスやムラが出てきてしまうんですよね。
【畑川】私たちの親世代は時間が空いている一方で、30代40代はきゅうきゅうとしています。その両者をマッチングする仕組みがあればいいなと思います。
天才を育てることが生産性アップにつながる
【松崎】生産性とは何かを考えると、利益を上げることに行き着く。もうかるビジネスを創り出せる天才を育てることも重要。
【末吉】大企業はどこもイノベーションを推進していますが、現場はそんな雰囲気ではないですよね。とがった人を採用し彼らが潰されないような人事制度や風土をつくることも大事ですね。
【黒川】そういう風土がつくれるトップの意識改革と、あとは幼少期から得意な専門性を伸ばす教育も必要だと思います。
「日本の生産性向上」について、下記により要望いたしますので、よろしくご配意賜りますよう、切にお願い申し上げます。
(1)イノベーション人材の育成に投資を!
生産性を上げるためには、利益を出せるビジネスを創発することが肝要。イノベーション人材や、新規ビジネスへの投資が近道です。
(2)忙しい人と、余裕のある人のマッチング
家庭と両立しながら仕事で生産性を上げるために、時間的余裕のある人に家事や育児を手助けしてもらうなどの、マッチングの仕組みを構築してはいかがでしょうか。
以上 座談会参加者 一同
ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング 社長 ロッシェル・カップさんからの提言
▼社会全体の生産性を上げるため、流動性のある労働市場の実現を!
最近日本では「働き方改革」という名の下、残業削減への動きが目立ってきています。長時間労働は生産性向上を妨げるなど悪影響が多いので、政府側の積極的な取り締まりが重要です。
しかし労働時間を制限するだけで十分でしょうか。労働時間削減は良いとして、肝心なのは働いている時間に何をしているかということです。実際日本のビジネスでは、時間ばかり消費してそれに見合った対価を伴わないものが多いのです。根回し、報・連・相、多すぎる会議、多くの報告書や書類、手続きなど。「無駄」をなくすためにそれらが見直されるべきでしょう。
また多くの日本人の、仕事に対するモチベーションの低さも課題です。好きではない仕事をしている、また仕事が自分のスキルに合っていない人は事実少なくないので、その人に合った職務に配属させる「適材適所」のアプローチを行うことが望ましいでしょう。
それから良い職場環境づくりに取り組み、部下を励ますリーダーシップ能力を備えたマネジャーが必要となります。そのためマネジャーに適正なコミュニケーションスキルを身につけさせる教育プログラムも必要となります。従業員が熱意を持って働くことで、生産性が自然と上がるからです。
最後に、現在の日本の法的枠組みの中では、会社は生産能率の低い従業員を解雇することが難しい状況です。しかしこのような従業員を解雇して別の会社に移らせることは、会社と本人両方にとって良いはずです。会社がもっと自由にニーズに合った従業員を集め、そして各自が自分に合った職場に辿り着くようにすることで、社会全体の生産性を上げられます。そのために、もっと流動性のある労働市場実現に向けての政府の法整備を期待します。