「ニッポン一億総活躍プラン」の柱として閣議決定した「同一労働同一賃金の実現」について、3人が持論を展開。メリット、デメリットは? 実現には何が必要? 画期的なアイデアも飛び出しました。
後藤さん●IT企業で超多忙な日々を送っていたが、フレキシブルな働き方ができるベンチャーに転職。子育てと両立中。
青山さん●フルタイム勤務を経て、週3勤務(正社員)に切り替え。企業広報を務めるかたわら、ダンス活動に取り組む。
週3勤務でフルタイムと同じ成果を出したら?
【桜田】結論から言うと、雇用形態や会社が違えど、同じ仕事には同じ賃金なんて、無理だと思う。
【後藤】私は同一労働同一賃金は条件付きで賛成ですね。
【青山】政府がいうところの「柔軟な働き方」を体現したような生き方をしているので、同一労働同一賃金には賛成です。
【桜田】私は、反対しているのではなく、現実的ではないと思うんです。なぜなら、「同じ会社で同じ労働をしている」といっても、その人が抱えている責務やスキルは違うと思うからです。私のいるベンチャーは、潤沢に人材がいるわけではないので、広報が広告出稿の手伝いをしたり、マーケティングを担ったり。すると、「広報」としての同一賃金というわけにはいきませんよね。
【青山】わかります。私も広報をしていますが、フルタイムのときは社長の秘書的な業務も担当していました。だから、以前からやっていたダンサーの仕事と両立するため週3日勤務に切り替えるときに、本業以外の業務は全部カットしてもらったんです。
【桜田】給料も週3日分ですか?
【青山】はい。短時間勤務なので、不足分はきっちり減らされます。
【後藤】私が先ほど「条件付きで賛成」と言ったのは、まさに皆さんが今指摘したことなんです。日本では、社員一人ひとりの業務範囲が不明確ですよね。海外では、ジョブディスクリプションといって、各自の業務範囲が明確なので、その仕事いくらと値付けがしやすい。青山さんが自分の業務範囲を週3日間で遂行できたのなら、時間で払うのではなく満額を支払うべきだと思うんです。
【青山】実は私も、そこは悩ましいところなんです。会社には週3日正社員という働き方を許可してもらった恩を感じる一方で、自分の仕事の成果はフルタイムの人よりむしろ上なのではないか。では、なぜその人と同じだけもらえないのかとたまに考えてしまいます。
定時退社+副業で力をつけては?
【桜田】そうですよね。また先ほどの「業務範囲」の話に戻すと、ベンチャーは若手を育てるリソースも少ない。おのずと私のような経験がある人が教えることになりますが、人を育成する仕事は給料にプラスされるのか気になります。
【後藤】確かに。私も以前、IT会社で営業をしていたときは、パートナー企業の仕事を取ってくる責任も負っていたので寝ずに働いていました。総合職は、取引先にも振り回されやすい。
【桜田】広報の仕事の場合、メディアが相手ですから、勤務時間が長い彼らにどうしても時間を合わせなくてはいけない。
【後藤】私は欧州のように、政府が勤務時間規制をすべきだと思います。週35時間などで区切ってしまう。すべての仕事がそうなれば、取引先に振り回されずにすむ。
【桜田】それは現実的ではないと思いますね。私は、コース分け人事をしたらいいと思います。仕事で自己実現したい人は、働けるだけ働く基幹社員として勤める。決まった時間で働きたい人はプロコースを選択するとか。
【青山】ウチの会社はすでに、コース分け人事をしていますよ。
【後藤】私はみんなそこまで働くことはないと思うんですよ。だって、無制限に働くコースを選択したら子どもをつくり育てることもできない。だいたい、日本人は家庭が二の次になりすぎだと思いますね。だから家に居場所のないオジサンが長時間残業してしまう。
【桜田】銀行や証券会社にはそんな人がゴマンといました(笑)。
【青山】ただ、長時間労働をやめるためには生産性を高めなくてはいけないですよね? そうなると、仕事が何もできない若手は困りますよ。ノー残業となるといつまでたってもスキルが身につかない。
【後藤】そういった若手の教育の機会を増やすことは大切。そしてもっと力をつけたい、働きたいという人は、副業をしたりしてほかの企業や団体で自分を鍛える。若い人にこそ、社外の経験を増やして真の実力をつけてほしいです。
「同一労働同一賃金」について下記により要望いたしますので、よろしくご配意賜りますよう、切にお願い申し上げます。
(1)労働時間の制約と業務範囲の明確化が必要です
労働時間の上限を週35時間~40時間と制限し、業務範囲を特定するなどして労働生産性を上げることが第一優先です。
(2)「出世コース」と「ゆるコース」を選べる仕組みに
コース別にすることで業務範囲を明確にし、それに見合った報酬を支払う仕組みの導入をお願いします。その際、ライフイベントに応じて選択・変更できることが大切です。
以上 座談会参加者 一同
日本大学 准教授 安藤至大さんからの提言
▼非正規の処遇改善には、同一労働同一賃金のほかにさまざまな手段がある
同一労働同一賃金について活発な議論が行われています。これは、同じ仕事をしていれば、雇用形態にかかわらず同じ賃金が支払われるという考え方。欧州では当然のことなのに、なぜ日本では実現していないのでしょう。
それは働き方の基本ルールに大きな違いがあるからです。欧州では、仕事に対して賃金が設定され、そこに労働者が採用される職務給が一般的です。これに対して日本では、正規雇用労働者の場合、人に対して賃金が設定され、その人に仕事を割り当てる職能給が多く見られます。
これまで日本では、企業業績に応じて労働者の賃金が変わることや、同じ企業で同じ仕事をする労働者の間であっても、雇用形態や年齢等によって賃金に差があることは当然として受け入れられてきました。仮にそれらを禁止して欧州型の同一賃金を強制すると、未経験者の採用や配置転換を通じた人材育成、また年功賃金等を実現不可能にするなど大きな弊害が発生します。よって同一労働同一賃金については、著しく不合理な待遇格差についてのガイドラインを定める以上のことはするべきではありません。
そもそも同一労働同一賃金の議論は、非正規雇用労働者の処遇改善を目的として始められました。時給で比較したとき、非正規は正規のおよそ6割の賃金であり、差が大きすぎるというのは確かに問題です。
しかし非正規の処遇改善にはさまざまな手段があります。労働条件を向上させるためには、人手不足であることと労働者の能力が高いことが必要です。よって経済を活性化させる政策を引き続き強力に推し進めるとともに、非正規雇用労働者の技能を向上させるための教育訓練を支援するなど、より効果的な施策に尽力すべきです。