企業のダイバーシティ施策といえば、「女性」に光が当たりがち。でも、先進企業が最近注目しているのが「LGBT」。国内では約12人に1人といわれるLGBTのダイバーシティの現状とは?
●LGBTってなに?

(L)レズビアン
同性愛/心の性が女性の人が、同じく心の性が女性の人を好きになること。
(G)ゲイ
同性愛/心の性が男性の人が、同じく心の性が男性の人を好きになること。
(B)バイセクシュアル
両性愛/男性も女性も好きになること。
(T)トランスジェンダー
体の性と心の性が一致しない状態。
※性同一性障害は、一定の基準を満たしたトランスジェンダーに対する医学的な診断名。

▼体の性(生物学的性)
性染色体、内外性器の状態等から決定される。
▼心の性(性自認)
自身の性別の認識の持ちようを表す。
▼好きになる性(性的指向)
どの性別を恋愛の対象とするかを表す。
▼表現する性(性表現)
服装や行動、ふるまいなどからみる“社会的な性別”を表す。
出所:ReBit

人口の約8%、約12人に1人がLGBT

今、日本の企業でもLGBTへの支援が広がっている。セクシュアルマイノリティ(性的少数者)の社員にとって、働きやすい環境を目指す取り組みだ。

先駆けて日本IBMでは同性パートナーの登録制度を設け、結婚祝い金等の慶弔見舞、育児・介護休暇、転勤時の別居手当など、同性婚カップルにも福利厚生を適用している。パナソニック、野村證券、ソニー、NTT、ソフトバンクなども同様の支援を導入した。

現在、日本では人口の約8%、約12人に1人がLGBTといわれる(2015年電通ダイバーシティ・ラボ調べ)。就業者も増えるなか、日本初のLGBT就活支援に乗り出したのが特定非営利活動法人「ReBit」。代表理事の藥師実芳(やくし・みか)さんは500人以上を支援し、多くの企業でLGBT研修を行う。

特定非営利 活動法人ReBit 代表理事 藥師実芳さん

「求職時に同性愛者や両性愛者の約40%、トランスジェンダーの約69%が困難を感じると言います(2015年、特定非営利活動法人・虹色ダイバーシティ、国際基督教大学ジェンダー研究センター調べ)。面接担当者に理解がないと差別的な対応やハラスメントを受けることがあります。カミングアウトしても受け入れてもらえるとは限らないし、カミングアウトしなければ、なぜその仕事をしたいかなど踏み込んだ話ができない場合もある。いずれにせよ入社しても自分らしく働けないのではと不安を覚えるのです」

藥師さんも大学卒業後に就職活動をし、戸籍上は女性でも男性として働きたいと希望した。すると「人間性や能力で評価するから」と受け入れてくれた企業もあれば、面接せずに帰されたり、体のことや「子どもは産めるのか」と聞かれたこともある。

特に、トランスジェンダーの場合、履歴書の性別欄、スーツやマナー等も男女に分かれているため、どちらを選択すべきか悩むことも多い。

さらに就労後も職場の理解がないと、情報を回してもらえない、挨拶しても無視されるといった嫌がらせをされるケースもある。ことに飲み会の席では、「もとは男だろう」と男性から気安く体を触られたり、「おまえはホモか?」などとハラスメントを受けやすい。

「セクシュアリティはアイデンティティに関わり、隠していると自己開示できないことが多いのです。『彼氏(彼女)いるの?』『結婚しないの?』と聞かれても答えられない。同性パートナーが入院したり、その親を介護する場合も、家族として休職を認められないと退職せざるをえない。LGBTの課題は女性の課題と本質的に似ているのです」(特定非営利 活動法人ReBit 代表理事 藥師実芳さん)

企業向けにLGBT研修を提供するLetibeeのLGBT研修の様子。

確かに職場のセクハラ問題にも通じ、企業のダイバーシティでも、女性の活躍推進を進めるなかでLGBT支援が着目されてきた。そうした企業向けにLGBT研修を提供する「Leti bee」代表取締役の榎本悠里香さんはこう語る。

「研修のテーマは、知識だけではなく意識を変えること。LGBTとは何かを知ったうえで、実際に身近で生じる疑問や誤解を一問一答で説明していきます。例えば、よく聞かれるのは『ゲイとホモは何が違うの?』という質問。またレズビアンの方に多いのは、男性から『もったいないね』と言われることです。そんなにきれいなら良い男性と結婚できるのに……と褒めたつもりでも、相手を不快にさせる言葉がある。自分では無意識に言ったことが人を傷つけていたかもしれないと気づくことで、当事者への意識も変わっていくのです」

Letibee 代表取締役 榎本悠里香さん

では私たちは何ができるのだろう。

LGBTを理解し、支援する人を「アライ」という。私たちも「アライ」になるには何を心がければいいのだろう。

「LGBTの人を応援したいと思う気持ちを示すことが大切」と藥師さん。差別的な言葉を使わない、相談を受けたら「話してくれてありがとう」と伝え、何に困っているのかを聞く。さらに榎本さんは「LGBTのニュースに関心を持ち、発信する」ことを勧める。社員がカミングアウトしたいと思ったとき、いつでも受け入れられる職場づくりが大切だ。今日からできることを始めよう!

 

▼今さら聞けない「LGBT」Q&A

Q1. 「ゲイ」と「ホモ」ってどう違う?
「ホモ」とは「ホモセクシュアル」という同性愛者を示す学術用語。アメリカでは差別的な蔑称として使われてきたため、「明るい」という意味もある「ゲイ」を使うようになりました。(榎本)

Q2. LGBTの人は見た目でわかる?
セクシュアリティは見た目ではわかりませんが、カミングアウトをしていなくても、LGBTの人は身近にいます。誰がLGBTであっても安心して過ごせるための配慮が必要です。(藥師)

Q3. 同性愛は病気なのですか?
病気ではありません。1993年の世界保健機構からの宣言を契機に、日本でも同性愛は医学的治療の必要のないものと考え、現在はアイデンティティの一つと捉えられています。(藥師)

Q4. 同性婚を認めると少子化になるのでは?
欧米では同性婚を認める国が増えています。そうした国で出生率の推移を調べると、同性婚のカップルが増えたことで少子化になっているという相関関係はみられませんでした。(榎本)

Q5. LGBTの人はどんな職業につくの?
LGBTでない人と変わりません。今の日本ではLGBTの就業者数が484万人を超えるといわれ、ありとあらゆる職業についていて、どの職場にもいると考えられます。(藥師)

▼今日からあなたもできること

1. 「パートナー」という語を使う
「彼氏(彼女)いるの?」「ご主人(奥さん)はどんな人?」など、性別を特定するような言葉を使わない。

2. SNSでLGBTのニュースを発信
LGBTのニュースや記事を読んだら、職場や地域などでシェアすると、当事者を支援するメッセージになる。

3. レインボーグッズを身に着ける
6色の虹のレインボーグッズは、LGBTを含むセクシュアルマイノリティに理解を示すシンボルとなる。