育児休暇制度や女性管理職の登用など、女性の活躍支援で他社より一歩も二歩も先を行くオリックスグループ。その根底にあるのが、多様な人材が多様な価値観を持ち寄って新たな価値を生み出すという共通した理念だった。
「2人の子どもの出産・育児を経験して、自分自身の働き方、さらに言えば仕事に対するマインドが明らかに変わりました」
そう話すのは、オリックスで医療機関向けにリースなどを行うヘルスケア事業部で第二チーム長を務める撫養(むや)潤子氏。入社時から主に営業職を歩んできたこともあり、1人目の子どもができるまでは残業もいとわず、目の前の目標をどうやってクリアするかということにがむしゃらに取り組んできた。
しかし、出産、1年間の育児休暇を経て復職してからは、遅くとも午後7時ごろまでには保育園に預けた子どもを迎えに行かなければいけない。限られた時間の中でどう仕事をこなしていくか、仕事を効率的に進めるためにどうすればよいか、常に考える習慣が身についたという。
現在10歳と5歳の2人の女の子の母親でもある撫養氏は、実はオリックスグループに468人(主要10社の合計。2015年3月31日現在)いる女性管理職の一人でもある。10人の営業部員を束ねるマネジャー業務に関して、「少し失礼かもしれませんが」と前置きしてこう続ける。
「マネジャーとして部下を育成する仕事は、子育てとも共通する点が多いと最近気付きました。遠隔操作というと語弊があるかもしれませんが、子どももいつまでも手取り足取り面倒をみるわけにはいきません。ある程度自由にやらせて、その代わりに先を読んで『こんな状態になって困ったら教えて』と伝えておくのです」
これもまた、限られた時間を有効に活用するために編み出された方法といえるかもしれないが、出産・育児の経験が仕事にも生かされるというのは会社にとっては理想的な姿だ。「女性活用」「ダイバーシティ」という言葉がことさらに叫ばれる現在、なかなかこうはいかないのが現実だろう。
それを可能にしている素地が、オリックスグループが掲げている“Keep Mixed”という理念。国籍、年齢、性別、職歴を問わず、多様な人材を受け入れることで多様な価値観や専門性による「知の融合」を図り、新たな価値を生み出そうという考え方だ。男性・女性ということを取り立てて意識するのではなく、性差も一つの個性として見るような企業風土が自然と根付いている。
流れた悔し涙に周囲も自分も仰天
オリックス水族館で広報チーム長を務める山本かおる氏は、そんな企業風土を象徴的に表すエピソードを紹介してくれた。
入社4年目に配属されたオリックス不動産でのこと。20代半ばにして、いきなり大阪支店初のタワーマンション建設という大型物件のプロジェクトリーダーを任された。企画から営業、販売までマンション販売のプロセスを学べる絶好の機会と積極的に取り組んだが、経験が乏しかったこともあり苦労の連続だった。
あるとき、どうしてもうまくいかず職場で悔し涙を流してしまったことがある。
「そのとき『山本は女だったんだ!』と周囲がビックリしてしまい、それを見て自分自身も驚いてしまいました」
プロジェクトリーダーの職責の前では、男性か女性かはまったく意味がない。周囲が性別を意識していなかったと同時に、山本氏自身もそういう意識を持っていなかったのだ。
「オリックスはいい意味で放任主義のようなところがあると思います。少しハードルの高いミッションを与えられて、それに対して成果を挙げることができれば、きちんと評価もしてもらえます」
それは逆に言えば、「女性だから」というのが言い訳にならない環境ともいえる。山本氏自身もそのことを強く感じるようになった。
「特に当時の不動産業界は男社会の色合いが濃く、女性であることがともすればネガティブに働きがち。周囲がそんな状況だからこそ、自分が『女性だから』と思うのは逃げになってしまうと、あきらめずに取り組みました」
そんなときに心強かったのが職場の女性の先輩の姿。同じような境遇をいかに打開していけばいいのか、ある意味で自分の指針になるような存在だった。
それは今後経験するであろう、結婚・出産・育児を経て仕事を続けていくうえでのロールモデルでもある。その常にあきらめない意識は、オリックスがグループで運営する京都水族館・すみだ水族館の広報責任者で、副支配人というマネジャー職にある現在も変わらないという。
上司の一言に背中を押され管理職を目指す
女性が結婚・出産・育児を経ても働き続けるうえで、実際にさまざまなスタイルで仕事を続ける女性のロールモデルがあるというのは重要なポイントとなる。オリックスグループもその点には注力しており、実際にグループ内の随所で目にすることができる。
オリックス自動車で個人向けの自動車リース販売を手がけるマイカーデスク第二課で課長を務める岩瀬由夏子氏と同課主任の小川まりえ氏も同じような関係性にある。
岩瀬氏が入社したのは1997年。就職氷河期の当時、オリックス自動車の総合職62人の新入社員のうち58人が女性だったという。
ただし、働き続けるうちに、女性だから採用されたわけではないことに気付いた。現在の業務内容は、ウェブサイトなどを見て問い合わせをしてきたお客さまに対して、自動車リースの仕組みをわかりやすく紹介し成約へとつなげる、いわばインバウンド型の営業だ。そこで求められる適性として、こまやかな気遣いが必須だったのだ。
「現部署への配属当時の課長も実は女性で、仕事がおもしろくなってきたころに言われた『せっかくなら上を目指してみれば』という言葉に背中を押されて管理職への道を選びました」と岩瀬氏は振り返る。
そしてそんな岩瀬氏の背中を追い続けているのが小川氏。彼女自身、月平均30台、最高で50台のリース契約を成約したこともあるトップセールスレディーだが、「女性として、ということではなく、自分の性格や特性をどうやって電話営業に生かすかを考えています」と話す。
「結婚・出産を経て時短勤務で職場復帰して、子どもが大きくなってからはフルタイムで働いている女性がいたり、岩瀬課長のように管理職として働いている方もいます。自分の将来の人生プランに沿って『こうなりたい』というロールモデルがあることは心強いです」