「男女の役割分担」を取り除くと明言

さて、たびたびここでも書いていた「一億総活躍国民会議」ですが、5月18日に終わりました。そして6月2日の国会にて閣議決定されました。

ただ、財源がなければ保育士の処遇改善などはどうなるのか? 緊急の課題なので、みなさん、ぜひ推移を見守ってください。

一億総活躍プランは10年の行程を持つプランで、幅広い施策をカバーしています。働くみなさんに一番関係がありそうなのは、保育、介護、そして「働き方改革」の部分でしょう。

個人的に良かったと思ったことは、長時間労働是正は「女性のキャリアを阻む」という点だけでなく「男性の家庭参画をも阻む」という一言を入れてもらったこと。

それから、3ページ目の(2)今後の取組の基本的考え方(一億総活躍社会の意義)という部分に、「男女の役割分担の壁」を取り除くべきものとして入れています。小さなひと言ですが、「役割分担」を取り除くと国が明言するわけですから、わたしの中では一番大きなことでした。

女性ばかりが活躍せよ、家事も育児もせよと言われているように感じている人が多いので、「男性の家庭参画」を促し、「男女の役割分担」を突破しなくてはいけない壁のひとつとして記載することに意味があると思ったのです。

以下の部分です。

「就職の際に既卒者が冷遇される「壁」、再チャレンジを阻む「壁」、子育てや介護との両立という「壁」、定年退職・年齢の「壁」、男女の役割分担の「壁」、やりたいと思うことがあっても、様々な「壁」が立ちはだかる現実がある。こうした「壁」を一つ一つ取り除く。日本を成長できる国へと変えていくため、ニッポン一億総活躍プランで定めたロードマップを一歩一歩、着実に前進させていく。」

“2年以内”が勝負!

長時間労働是正に関しては、小室淑恵さん(ワーク・ライフバランス代表取締役社長)が10年にわたって取り組まれていますが、小室さんは産業競争力会議で、私は一億総活躍国民会議で、強く提言してきました。

「働き方改革」を柱に据えると安倍総理が強く発言をするようになったのは、今年の1月からです。

働き方改革とは「同一労働同一賃金」「定年延長」「長時間労働是正」です。ほかの政府の会議の委員の方に聞いても、一億会議が働き方改革については、「一番踏み込んでいる」ということでした。

小室さんとは互いに情報交換し、ほかの会議との温度差もわかるので、非常に勉強になりました。もちろんほかの委員の提言にも「長時間労働是正」は入っているのですが、具体的に「法改正」を「2年以内にやらないと少子化対策としての効果は薄い」と踏み込んで発言したのは、小室さんと私だけだと思います。

閣僚にとっての会議は山のようにありますが、日程が重なるので、最後のほうでは前日に私が一億で発言し、翌日は小室さんが産業競争力会議で発言し、と毎日同じ提言を会議の主要メンバー(閣僚)に聞いてもらうこととなりました。

最終的に長時間労働是正の部分には「三六協定における時間外労働規制の在り方について、再検討を行う」と記載されました。検討開始は工程表によると2016年となっています。

また小室淑恵さんによれば「昨年の日本再興戦略には、総論に半ページ割いてもらうのがやっとだった『働き方改革』について、今回、なんと!! P24~P25に1ページ以上割いて」いるということで、政府の「働き方改革」への取り組みが本気度を増していることがわかります。

「政治は言葉」とロビイイングの先輩が教えてくれたのですが、言葉や順序、分量などが重要なのは、このプランに沿って「予算」の争奪が始まるからです。

保育士の処遇改善について

保育士の処遇改善も、会議の大きなテーマでした。いくら保育園を新設したくても、保育士不足の今、まずは保育士を確保しなくてはいけない。

その場合、保育士の長時間労働、そして全産業平均よりも10万円は下回るという賃金を改善する必要があります。

「保育士としての技能・経験を積んだ職員について、現在4万円程度ある全産業の女性労働者との賃金差がなくなるよう、追加的な処遇改善を行う。児童養護施設等においても、その業務に相応の処遇改善を行う」となっています。しかしこの点は民進党の山尾志桜里さんにさんざん突っ込まれました。

「これでは保育士は女性の仕事ということになる。また女性は男性より賃金が低いということを認めることになる」ということです。つまり「性差別」を容認するのかと突きつけたわけですね。

わたしも最初のこのプランの文言を見たときに同じことを言いました。この現実の差「男女の賃金差が存在すること、保育士のほどんどが女性であること」が今はあるにせよ、記述の後にひと言、その賃金差は埋めていくという方向性を示した方がいいのではないだろうかと提言しました。

最終的には「なお、全産業の男女労働者間の賃金差については、女性活躍推進法や同一労働同一賃金に向けた取組を進めていく中で、今後、全体として、縮めていく。保育士についても、必要に応じて、更なる処遇改善を行う。」という文章が最後に入っていました。

日本は保育の問題に関して、世界に遅れているといっても過言ではありません。アメリカの保育システムは脆弱ですが、そのせいで仕事を失う人はいません。

女性はすでに十分すぎるほど活躍している

女性活躍という文脈をこの3年間、安倍政権がリードしてきたのは確かです。しかしなぜ「一億総活躍」となったのか?

女性だけに「働け」「意識を変えて管理職を目指せ」と言っても、すでに日本女性は活躍しすぎるほど活躍している。

男女局の会議で千葉大の大石亜希子先生が提出した資料には、

・「日本の現役世代の女性の有償労働時間は平均で178分/日、フランス男性(173分/日)より長く働いている」
・「日本の女性の睡眠時間は韓国と並んで短い」
・「日本は男女合計の有償労働時間が突出して長い(553分、北欧諸国は400分台)→時間あたり生産性が低い」

と指摘されていました(http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/jyuuten_houshin/sidai/pdf/jyu02-2-2.pdf)。

女性は仕事に、家庭に活躍している。これ以上は「男女ともに働き方を変える」「男性も家庭に参画する」ことでしか、現状は変わらないのです。

最初は違和感があった「一億総活躍」という言葉ですが、保守的な層にも「一億総活躍ですから」と言えば、「女性が働くことへの説明」がいらなくなりました。ある種の層に訴えるときに、便利に使えるキラーワードとして、使ってほしいと思います。

長時間労働については、6月17日にまた緊急フォーラムを行い、さらに「36協定の時間外労働規定の再検討」を加速し、欧州なみの「インターバル規制」などの法改正に向けて、進んでいきたいと思います。

みなさまには、今後、このプランがどのように具体化していくのかを、しっかり見届けていただきたいと思います。

「働き方改革は難しい。やってみて難しいとわかるとすぐに引っ込めるのではないか?」とある人に言われました。もちろん、そういった危険性もあると思います。

しかしこの3年間の「女性活躍推進」も、やればやるほど「本気度が増していった」感じがします。なぜかといえば、やれば「国際的に評価」されるからです。

政府の本気を後押しするには、評価や後押しする世論が必要です。多くの人の間で「36協定」や「インターバル規制」という単語が、「育休」や「保活」と同じぐらい出てくるようになることが当面の目標です。

もっとできることがあるとは思いながら、駆け抜けた8カ月でした。ご協力くださったみなさま、応援してくださったみなさま、本当にありがとうございました。

以下がニッポン一億総活躍プランの「長時間労働」についての部分です。

(長時間労働の是正)
長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参画を阻む原因となっている。戦後の高度経済成長期以来浸透してきた「睡眠時間が少ないことを自慢し、超多忙なことが生産的だ」といった価値観が、この3年間で変わり始めている。長時間労働の是正は、労働の質を高めることにより、多様なライフスタイルを可能にし、ひいては生産性の向上につながる。今こそ、長時間労働の是正に向けて背中を押していくことが重要である。週49時間以上働いている労働者の割合は、欧州諸国では1割であるが、我が国では2割となっている。このため、法規制の執行を強化する。長時間労働の背景として、親事業者の下請代金法・独占禁止法 違反が疑われる場合に、中小企業庁や公正取引委員会に通報する制度を構築し、下請などの取引条件にも踏み込んで長時間労働を是正する仕組みを構築する。さらに、労働基準法については、労使で合意すれば上限なく時間外労働が認められる、いわゆる36(サブロク)協定における時間外労働規制の在り方について、再検討を開始する。時間外労働時間について、欧州諸国に遜色のない水準を目指す。あわせて、テレワークを推進するとともに、若者の長時間労働の是正を目指し、女性活躍推進法、次世代育成支援対策推進法 等の見直しを進める。
白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。1億総活躍会議民間議員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊1月5日発売『専業主夫になりたい男たち』(ポプラ新書)。