会社の後輩が優秀過ぎて困ってしまうという嘆きを耳にします。語学やPC、プレゼンテーションといったスキルに加えて、中には学生時代に起業などのビジネス経験があるという人も。「後輩に追い抜かれるのでは?」という不安を払拭するためには、何が必要なのでしょうか。

「イマドキの若者は」という言葉の意味が変わってきている

かつて「イマドキの若いやつは」という言葉の後には、上司の愚痴が続くのが一般的でした。仕事ができない部下のことを“使えない”と嘆くときの枕詞として使われていたのです。

いまだにその年代の人たちが読むと思われるメディアには、典型的なトンデモ事例とともに、「イマドキの若い人は使えない」という話が掲載されています。けれども、実際のビジネスの現場では、まったく違う反応が増えていると、皆さんは感じているのではないでしょうか。

例えば、新卒採用の現場。少し前までは短期間でも語学留学の経験があり、日常会話程度の英語ができれば、いわゆる国際派(変なレッテルですが)と分類されていました。当の学生も「インターナショナルな活躍ができるフィールドを希望します」と胸を張っていました。しかし、今ではこの程度の学生はゴロゴロ転がっています。単に語学ができればいいというわけではありませんが、かつては武器になったものが、もうならなくなっているのです。

就職活動が始まると、ちまたにはサークルの副部長が溢れるという笑い話もありました。ちょっとした集団でのリーダーシップ経験を、他者との差別化に利用できた時代は今や昔。プチ起業の経験を誇るだけでなく、事業を継続したまま就活に挑む学生が溢れる時代が、そこまで来ています。

そうすると不安になるのが、優秀な若手との付き合い方。キャリアの曲がり角に差し掛かった世代に話を聞いてみると「優秀すぎてこちらが緊張する」「いつ追い越されるか不安だ」という声もチラホラと出てきます。ビジネス社会は経験がモノを言うことは間違いありません。ですので、経験の浅い若手にまったくかなわないという状態になることは考えにくいのですが、それでも心配になる気持ちもよく分かります。

かつては“使えない人”の代名詞として使われた「イマドキの若者」という言葉。ところが、現代の「若者」には、ベテラン顔負けの優秀な人たちがたくさんいるのです。

単に“経験がある”だけでは意味がない、そんな時代

ビジネス社会は経験がモノをいうと書きましたが、事はそんなにシンプルではありません。周囲を見渡してみれば分かるはずですが、10年前と同じ方法で仕事をしているという人は、それほど多くないでしょう。

かつてとはまったく異なるやり方で仕事を進めている以上、単に経験があるというだけでは、それこそ“使えない人”になってしまいます。世の中の進化とともに、単純な経験は完全に陳腐化しているのです。

もちろん、経験から得られるスキルをきちんと理解し、進化するビジネス社会に適応できればいいのですが、それはなかなか難しいことです。

例えば対人関係スキルは、「面会してどう話すかが大事」で「電話で用件を伝えるなんてありえない」という時代がありました。その後「メールで済ませるなど言語道断だと叱り飛ばしてやった」という武勇伝が語られる状況を経て、今では「連絡はチャットで必要なことだけサクッと伝える」という流れになっています。時代とともに求められるスキルはこのように変化してきました。

昔と違い、ビジネス社会が圧倒的なスピードで変化しているという意識をもっていない人は、かつての経験とそこから得られた表層的なスキルを振りかざします。そして、「イマドキの若いやつは、仕事はできるのかもしれないが、大事なことが分かっていない」と愚痴る。その結果、ベテランこそが本当に大事なことが理解できていない、という状況が露呈されるのです。

ベテランだからこそ、自らのスキルを可視化しておくべき

所属している組織から、自分が何を要求されているのかをキチンと理解できていないというビジネスパーソンは、意外と多いものです。求めるものをうまく定義できていない企業にも問題がありますが、それと同じくらい、働く人たち自身が、自らのスキルを可視化できていないケースが多いのです。もちろん、資格や語学力テストのスコアなどは分かりやすいので、ちゃんと整理できている、という人もいるでしょう。

けれども、「私はこういう経験を積んだから、こんなスキルを身につけている」とか、「私はこういう仕事をしてきたから、こんな能力があり、こんなことを求められてもできる」と、自信を持って言える人は少ないはずです。特に、1つの企業に長く所属し、同じ仕事をずっと続けていると、経験から得られたスキルを意識しにくくなります。その状態で、働く場所や働き方の変化に直面した場合、対応に苦慮するであろうことは想像に難くありません。

上記のようなスキルの可視化、棚卸しが十分に行えれば、イマドキの優秀な若手にも対応できます。 そうすれば言い方は悪いですが、上司や先輩としての体面を保つことができるでしょう。しかし、時代に取り残された状況で、単に古い経験をひけらかしているだけでは、彼らに追い抜かれる前に“見限られる”可能性が高まります。

イマドキの若手の良さを引き出す立場にある、という自覚

プレジデントウーマンオンラインの読者の皆さんの中には、イマドキの若手をマネジメントする立場になっているという人も多いででしょう。当たり前のことですが、企業からは彼らの能力を十二分に生かしポテンシャルを引き出しながら、確実に成長をさせることを求められているはずです。そのためには、まずは経験から得られるものを、自分自身で理解しておく必要があるのです。そうしないと、若手を成長させる経験とは何かが分からなくなってしまいます。

また若手に今までと同じことをさせておけばいい、という考え方がもはや通用しないことは言うまでもありません。読者の皆さんが経験によって得たスキルを、現在のビジネス社会に対応できる最新版にアップデートできれば、“イマドキの若いやつ”のお手本になるはずです。そう、上司や先輩としての役割を果たすためには、“尊敬できる存在であること”は大事なことなのです。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。