その日その時の相手に応じて機転を利かせて動く彼女たち。「こんな気の利かせ方があったのか!」と、思わずうなってしまう気配りとは? 前編では、「名刺・雑談・接客・キャンセル・電話」の5つの気配り術ををご紹介。
【1.名刺】役職や連絡先を常に最新に更新
●グランド ハイアット 東京 総支配人 秘書・山田佳代さん
ホテル業界ではお客さまが最優先。これまでの秘書時代には、経営トップが個人のエンドユーザーと直接相対することは少なかったのですが、ラグジュアリーホテルの総支配人が応対するお相手は、企業の方から個人のお客さままで、とにかく幅広いのが特徴です。
仕事柄、いつどこで誰と会うかわからないので、上司もたいてい名刺を持ち歩いていますが、イベントなどの際には、私も予備として上司の名刺を持っていくようにしています。
国内外、個人の方まで含めれば、異動や転職をされる方も多いので、いただいた名刺はその方との重要な接点。履歴をさかのぼれるように分類・整理したり、日常的にやりとりする方については、役職や連絡先など、最新情報を更新するよう心がけています。
●目をあわせて挨拶
名刺交換は、初めてお会いする方との挨拶の機会。つい名刺に気を取られがちになるので、きちんと相手の顔を見るよう心がけます。
●日付を記入して保管
上司が受けとった名刺は日付スタンプを押してファイリング。面会履歴をたどることもあるので、古い名刺も全てファイルに保管します。
●顧客情報はPC管理
上司が頻繁に連絡を取りそうなクライアントは、メールソフトのアドレス帳に入力。相手が異動や転職などをした際は、速やかにアップデート。
【2.雑談】二度とないこの機会を活かしきる
●星野リゾート 社長室・橋本育江さん
弊社では、社長秘書は1人体制・1年限定という独自のシステムがあります。星野からは「良いチームをつくっていこう」と言葉をかけてもらい、常に「今しかない」という思いで取り組んでいます。
星野は国内外の視察に出ることが多く、私はそのほぼすべてに同行しているので、個別に社外の方とお話しする機会も多いです。1年限定なので、複数回お会いできることは少なく、毎回毎回、今にかける、そんな思いです。お話しするときは、相手の方に少しでも会社のことを知っていただけるよう、意識します。また、会話の中で弊社の話題が出たときには、先方の率直な意見を星野に伝えるようにしています。
移動時間など星野と雑談することも多く、自身の家族や趣味などの話もよくしますし、社員が何でも話したくなるような雰囲気があり、時にはプライベート面のアドバイスをもらうこともあるんですよ(笑)。
●会社を知ってもらう
パーティーなど人が集まる席では、会社を知ってもらうため、雑談の中から相手の旅行ニーズを引き出して、お薦めの施設を紹介することも。
●思いは素直に伝える
誰に対しても素直に話すのが基本姿勢。社外の方からは独自の秘書システムについて聞かれることも多く、感想を包み隠さずお伝えします。
●上司のモードに合わせる
上司が仕事モードかリラックスモードかを見極めて話題を選びます。リラックスタイムに仕事を進めようとして失敗して以来、切り替えを重視。
【3.接客】お客さまの数だけ答えがある
●大和ハウス工業 秘書室 次長・谷岡紀子さん
会長の樋口は熱血経営者で知られますが、豪快にして繊細。細かなことに気づくタイプです。たとえば会合に参加する際、どんな会で誰が参加するのか細かく聞かれます。答えられないでいると「何年秘書しとんねん」ということに。また、お客さまの好みも把握していて「この人紅茶やで」とこっそり教えてくれることもあります。接客はお客さまによって正解がちがうもの。「臨機応変に、自然体で」を心がけています。
お会いするお客さまのリサーチはチームで行い、いつ樋口に伝えるか、スケジュールをにらみながらベストタイミングを考えます。同じチームの受付担当は部屋の温度や机の配置を確認したり、お客さま専用のエレベーターを呼んでくれたり。気持ちいい接客は、連携プレーで成り立っているんです。
●接客は電話に始まる
アポイントの電話から接客は始まっていると考えています。この会社の秘書室は電話をかけやすいと思ってもらえるよう丁寧な対応を。
●ノックはゆっくり3回
ドアのどこをたたけば心地よい響きが出るかを研究。中にいる人が驚かないようにゆっくり3回たたくのが大和ハウス流です。
●凡事徹底の精神で
樋口はよく「凡事徹底」という言葉を使います。小さな当たり前のことを徹底する。秘書の仕事はその積み重ねなのですが、案外難しいんです。
【4.キャンセル】スピーディーに、正直に、心を込めて
●田原総一朗事務所 秘書・江川綾子さん
田原は好奇心旺盛で、いろんな仕事をしたがるので、スケジュールさえ合えばなるべく受けるようにしています。
ただ、ジャーナリストなので、基本的にCMの仕事はお受けしないことが多く、(ジャーナリストとして)メッセージを伝える機会がないクイズやゲーム番組などは、正直に説明して、先方にご理解いただけるよう努力します。
「断るときは早めに」というのは、入所当時の事務所社長だった母から言われていました。体調を崩して、急きょ講演に行けなくなったときは、すぐにおわびの連絡を入れ、代演者を探したことがあります。自己都合でキャンセルするときは、誠意を尽くします。
お断りするときは、なるべく電話で。先方が不快に思わないよう、気持ちを込めてお話しするようにしています。
●お断りは速やかに
返事を引き延ばした末に断ることが、一番相手に迷惑なこと。スケジュールが調整不能と判断したら、できるだけ早くNGの意思表示をします。
●断る理由は正直に
ジャーナリストとして情報発信できない仕事は受けない。理由を正直に説明することで、再三のオファーの手間を相手にかけさせないように。
●思いを肉声に込める
お断りの言葉はメールだと一方的になり、細かいニュアンスが伝わりにくい。「申し訳ない」という気持ちを肉声に込め、電話で伝えます。
【5.電話】母の教え「コールがあったらお金と思いなさい」
●田原総一朗事務所 秘書・和田眞理さん
うちの事務所ではとにかく「電話命」。私が小学生のころ、田原がテレビ局を辞めてフリーになりました。当時母に言われた言葉は、今も記憶しています。
「今日からはフリーだから、電話をかけてくる人は全員“お客さん”。電話が鳴ったらお金だと思いなさい」
ですから電話はすべて携帯に転送し、キャッチホンも使って、つながらないことがないようにしています。
電話は田原にとっても大事なコミュニケーションツール。田原は人と会うのが大好きで、自分からもよく電話をかけますし、娘の私たちにも「孫の様子は?」とこまめに連絡してきます。いつでも電話に出られるようにしておくことは、仕事のためだけでなく、田原が寂しさを感じることなく、気持ちよくやっていくためでもあるのです。
●携帯は肌身離さず
仕事のチャンスは逃がしたくないので、ゴミ捨てに行くときでも携帯電話は手放しません。いつどんな人と縁ができるかわからないからです。
●着信したら折り返す
着信履歴が残っていれば、たとえ知らない番号でも折り返します。横着をしてかけずにいると、既知の人としか仕事ができなくなります。
●通話用にガラケー
電池のもちがいいガラケー(フィーチャーフォン)を通話用に使用。スマートフォンではLINE公式アカウントやフェイスブックなどを閲覧。
※後編は4/20に更新予定です。