今の給与に満足していますか? 英系人材紹介大手・ヘイズがアジア全域で行った3000社・600万人への最新の給与意識調査から、給与と機会のジェンダーギャップ、そして日本女性の働く意識が明らかになりました。ヘイズのアジア マネージング ディレクター、クリスティーン・ライトさんに話を聞きます。

日本の女性管理職率はアジア最低!?

英系人材紹介大手・ヘイズのアジア マネージング ディレクター、クリスティーン・ライトさん。イギリス、オーストラリア、日本などで20年以上にわたり要職を歴任。2012年からはアジア地域(日本、中国、シンガポール、マレーシア、香港、インド)の統括責任者として、中国・上海を起点に各国を飛び回っている。

企業に女性の就業や活躍について行動計画提出を求める「女性活躍推進法」、2030年までに女性管理職30%を目指す“202030”など、政府主導の動きが目立つ。だが果たして、日本の労働市場における女性の現状に変化はあるのか? 企業、そして働く私たちにできることは何か? グローバルに人材紹介サービス事業を展開するヘイズのクリスティーン・ライト氏に、アジアを中心に世界の動向を交えて話を聞いた。

一部の業界で女性の正社員は増えている――日本での女性の雇用について、ライト氏はまず、明るいニュースを伝えてくれた。「企業の女性雇用は確実に増えている」というのだ。ただし業界や業種によりばらつきがあり、銀行、金融業では女性の正規雇用がこの2年で約10%増えたが、ITやライフサイエンス分野での女性の雇用率はまだまだ低い。しかしこれらの業界でも女性社員獲得のための取り組みがはじまるだろう、とライト氏は見ている。企業の中には、ヘイズと提携して女性の人材獲得に乗り出しているところもあるという。

一方で、管理職比率はアジア最低レベル。だがこの流れでみると、4月に施行が迫る女性活躍推進法は追い風となりそうだ。ライト氏は、海外の先行事例からも政府の取り組みは肯定的な動きだと見ている。

「この課題に取り組むにあたって、意識面での推奨と政府の推進とを組み合わせたバランスのとれたアプローチが必要」とライト氏。成功事例としてマレーシアの話を教えてくれた。

女性活躍、アジアトップはマレーシア

「マレーシアでは2000年代前半から、労働市場における女性進出を国策として行いました。その結果、女性の労働参加は高まっています」。政府は育児施設を持つ企業に対して税を優遇するなどの支援を行い、さらにフレックス制の導入推奨によって、働く母親の環境支援も大きく進んでいるという。

その結果だろうか、ヘイズがアジアの5カ国(日本、中国、香港、シンガポール、マレーシア)で3000社・600万人を対象に行った給与に関する年次調査「2016年度 ヘイズ給与ガイド」では、女性管理職の比率が、マレーシアでは37%とアジアの5カ国の平均である29%を大きく上回った。日本が2020年に目指す「指導的地位に占める女性の割合が30%」という水準は、マレーシアでは既に達成、アジア平均でもほぼ達成されている。一方で日本の女性管理職率は19%――アジア各国と比較すると、日本は遅れているということになる。

女性管理職率、アジア5カ国最下位の日本

世の中の半分が女性であるのに対し、労働市場における女性は50%ではない。この問題は“性別による多様性”を意味する「ジェンダーダイバーシティ」という言葉で表現されるが、ライト氏によるとこのジェンダーダイバーシティは日本では特に深刻な課題だという。

「海外でも課題として取り上げられていますが、日本は取締役、管理職、社員と全てのレベルにおいて女性が少ない」とライト氏は指摘する。前ページで触れたとおり、日本の女性管理職は19%と5カ国中最低なのだ。2年前から昨年までは15%から一気に4ポイントアップして19%になったが、この1年は横ばいで変化はなかったのだという。

顕著に男女差が出た「均等賃金」「均等機会」

「ジェンダーダイバーシティのバランスは、雇用主が女性をどうみるかという企業側の姿勢や考え方、そして雇用される個人の2つの要因があります」とライト氏。後者の個人という点で、ヘイズの女性活躍推進に関する調査から、日本女性の働き方への意識が分かるデータがある。

【均等賃金】では「平等と思わない」と答えた男女の割合に10%の差が出る結果に。【均等機会】ではさらに「平等と思わない」の男女割合に16%と大きな開きが出た。また男性は年齢が上がるほど「不平等」と感じるポイントが減るという統計も。これは女性のキャリアを阻む「ガラスの天井」の存在を示唆するとも考えられる。

「性別に関わらず平等な給与・報酬が与えられているか」として均等賃金に対する意識を聞いたところ、男女の平均で67%が「平等だと思う」と回答、これは世界(日本、中国、オーストラリア、英国、フランス、ロシア)の平均である64%と僅差となった。

「平等な機会」については、62%が「性別に関係なくキャリアアップや昇進の機会を与えられている」と回答。これも世界平均の61%とほぼ同じという結果だ。ヘイズではこの2つを、予想していたよりも良い結果と見ている。

だが、回答者の内訳をみると、勤務先が外資系か日系か、男性か女性か、年齢など属性の違いによりばらつきがある。賃金については外資系企業の従業員の74%が「平等」を選んだのに対し、日系企業では63%に。機会については、「平等」を選択した女性は51%、男性は67%と16ポイントも差がある。さらに、結婚、出産、育児など女性のライフスタイルが大きく変化する年齢層である26歳~40歳の女性のみピックアップすると、63%が「平等ではない」と感じていることが分かった。

社内環境への意識、日本女性の関心は低い?

ヘイズが大きな問題だと見ているのは、企業側の取り組みに対する、雇用されている女性の関心の低さだ。「自分が勤める企業にジェンダーダイバーシティに関する方針や実行規範が正式に存在するかどうか」について、3割が「分からない」と回答しているのだ。

過去5年にダイバーシティ問題が改善されたかという質問についても「分からない」が過半数の51%を占め、今後5年での改善の見通しについても「分からない」は39%に――。賃金、機会の平等を意識する前に、土台としての均等への関心の低さがうかがえる。この無関心が、均等賃金均等機会に関する日本女性の統計を、比較的肯定的な傾向にして、それをヘイズが「意外な結果」としたことは否めない。

文化や習慣の違いもある。日本の雇用が「会社に勤める」組織型採用で、新卒一括採用・年功序列が多いのに対し、海外では職務(ジョブ・ディスクリプション)を明記して採用される職務型が主流だ。「日本では、能力や実績が給与・報酬に反映されるべきという意識が海外と比べると希薄なのかもしれない」とヘイズは見ている。

ジェンダーダイバーシティで無視できない
女性のマインドと文化的背景

働くことに対する女性のマインドはどうだろうか? 男女共同参画推進連携会議企画委員会が、過去に国内で行ったアンケートからの課題として、

・男性だけではなく女性自身も含めた社会全般における固定的役割分担意識の見直し
・働き方の見直しを含めたワークライフバランスの実現
・女性がキャリアデザインを行うための環境整備、能力開発のための支援

などを挙げている。女性の労働市場への参画と202030の実現のためには、「家事と育児は女性」という固定的な役割分担意識の変化が女性にも求められている、といえそうだ。

現在中国に在住、その前には日本で長く勤務していたこともあるライト氏に、日本とアジア諸国の働く女性のマインドについて聞くと、にっこりと笑いながら「大きな違いがありますね」と返ってきた。

「中国やマレーシアの女性はアイデンティティーが強く、野心的です。それに対し、日本の女性は控えめです」という。上記のヘイズの調査によると、賃金が均等だと感じている日本の女性は62%であるのに対し、中国の女性は72%。賃金交渉に控えめな日本と、野心的な中国を示しているようにみえる。

ライト氏は文化の違いも指摘する。「日本では約60%が出産で仕事を辞めます。なぜなら、子育ては女性の仕事とみなされているからです。中国では家族全体で子育てをすると考えられています。女性は出産後4カ月で職場に復帰し、祖父母が子育てで大きな役割を担っています」。このように、ジェンダーダイバーシティにはマインド、そして文化的な違いも大きく影響しているようだ。

欧米でも根強いジェンダーギャップ
解決策は「成果型報酬」と「同一賃金」の導入

先行していると思われる欧米でも、FacebookのCOO、シェリル・サンドバーグ氏の著書『Lean Inが話題となったように、ジェンダーダイバーシティは課題だ。

「歴史的に男性が働き、女性が家に残るという文化がありました。女性が社会に進出して収入を得るようになったとしても、家計のメインの稼ぎ頭はやはり男性、というところが欧米でも多いのです」とライト氏。

ヘイズの調査でも、賃金の平等について聞いたところ、平等ではないという回答は英国女性で57%、フランス女性では55%となり、日本女性よりもポイントが高い。これらの国は女性の管理職の比率が日本よりも高いのに、この結果だ。「変化はなかなか難しいのです」――ライト氏は実感を込めて話す。

これらのギャップを埋める解決策としてヘイズは、「成果型報酬」と「同一賃金の導入」を挙げる。同じ仕事をして、同じように職務が遂行できるのであれば同じ賃金を、成果を出しているならよい賃金を、という考え方に基づけば、給与や昇進の交渉力に長けている男性と、そうではないと評される女性との差を乗り越えることができるからだ。