この春、新しく管理職になる読者も多いのではないでしょうか。プレーヤーとして優秀な人が、マネージャーとして優秀とは限りません。そもそも管理職とは何をすればいいのか。あなたが会社から求められていることは何か? その答えは、実はとてもシンプルです。

この春から新しくマネジメントの仕事に就くという人も少なくないと思います。かつて、女性の若手管理職は本当に数えるほどしかいない珍しい存在で、その活躍がメディアに取り上げられることもよくありました(逆に、男性の若手管理職が活躍したからといってメディアに取り上げられることがなかったのは、その存在が当たり前でニュースバリューが少なかったからです)。

今では、それほど珍しいこともなく、周囲を見渡せばチラホラといる、くらいの状態にはなっているはずです。

そういう意味では、手本とすべき先輩は皆さんの身近にたくさんいるはずです。かつてはほとんどいなかったので、先輩たちは見習うべきモデルを見つけるのに苦労していました。メディアなどで取り上げられるような女性管理職は、キラキラとして、あるいはギラギラと仕事に燃えていて、というタイプが、お手本としてズラリと並びがち。それを見て「私自身は、そんなキャラクターではないけれども……」と戸惑うこともあったでしょう。

ここでは、皆さんは恵まれている、という話をしたいわけではありません。以前は「女性管理職といえば、こんな感じだよね」という、ある種のタイプがありました。が、今はもう存在しません。人数が増えた分、多種多様になっています。

それぞれが自分の個性を出してマネジメントに取り組んで良い、という時代になったからこそ、キャリアの曲がり角に差しかかっている皆さんは、きっと戸惑ってしまうと思うのです。そう、「今まで通りの自分でいいのか?」と。

プレイヤーとマネージャーは求められるものが違う

昇進の打診があって以来、自分自身の上司から折に触れて「あなたには、こういうことを期待しています」というアプローチがあったはずです。さまざまなレイヤーの上司からいろいろなことを言われると混乱しがちですが、それでもその言葉の多くは、あなたへの「組織(厳密にいうと組織を構成する個人なのですが、ここではその構造には触れないでおきます)からの期待」です。そしてそれはあなただけに期待されているのではなく、新しい若手女性管理職として一歩を踏み出すあなたが抱える、部下たちへの期待でもあるのです。

プレイヤーとして働いている間は、自分らしい働き方、自分らしい仕事の進め方、自分が成果を出せばいい、という感じで、自分のことだけを考えていれば済みました。自分が頑張ればなんとかなりました。

しかし、これからそうは言っていられません。自分以外の人(部下)に対する組織からの期待も、マネージャーは自分ごととしてとらえる必要があります。しかし、これが意外に難しい。なぜなら、部下の一人一人が、仕事に対するモチベーションや、組織に対する忠誠心が異なるからという、考えてみれば当たり前の理由が立ちはだかっているのです。

チームの人たちはそれぞれ、仕事へのモチベーションも組織への忠誠心も異なります。

あなたが上司になるための教育は、ずっと前から行われていた

そこで、多くの新人管理職は部下と接点を数多く持ち、相手の仕事に対するモチベーションや、組織へのロイヤルティーを探ろうとします。皆さんにも記憶があるはずです。新たに着任してきた上司が面談と称して、ランチや夜の食事に誘ってきて、いろいろと話をする機会を持ちたがっていたことを。

そのシーンを思い出してみてください。自分は上司にきちんと思いを伝えられたのか、また、伝えた思いは受け止められて、その後の仕事に反映されたのか。振り返ってみれば、あなたが上司と接点を持った瞬間は、今、上司になったあなたにとって必要な教育だったのです。

組織から期待されていることを、改めて整理してみる機会

さて、ここでお節介な一言を。部下になった人たちと接点を持つことは、新人管理職(変な言葉ですね)としてはとても重要なことです。しかし、その前にもう一つやっておきたい作業があります。それは、組織から期待されていることを改めて整理しておくということです。管理職個人、つまりあなた自身に期待されていること、そしてあなたの任される組織に期待されていること。これらの多くは混同されがちですが、実は似て非なるものです。

属している組織から何を期待されているのか、それが不明確でよく分かっていない状況で働くことは、とても難しいはずです。何をすれば評価されるのかも分からないし、そもそも自分がやっていることが報われるのかどうかも見えてこない。その状態で「頑張れ、もっと頑張れ」と言われても無理な相談です。ですから、まずは組織は自分にどんなことを求めているのか、改めて整理してみることをお勧めします。

その上で、自分が求められていることを達成するために、自分にはどんな能力やスキルが必要なのか、きちんと確認しておきましょう。どういう能力を身につける必要があるかという自覚のないまま仕事をしてしまうと、そもそも求められる期待に応えることもできませんし、何より、自分自身の成長を阻害してしまいます。今までの経験から皆さんも骨身に染みているでしょうけれども、成長しない上司ほど困った存在はありませんから。

そうした後、自分に任されたメンバーに求めることを把握すると、彼らにどんな期待をし、どんな指示をして、どんな成長を促す機会を提供すればいいのか、おのずと分かってくるはずです。

管理職がやるべきことは、実はシンプル

間違えてはいけないのは、あなた個人と組織、どちらに期待されていることを優先するか。個人ありきで考えてしまうと、マネジメントはうまくいきません。属している組織が、そのメンバーたちに何を期待しているのかということを、一番の軸にする必要があるのです。

イマドキの管理職がすべきことはとてもシンプルで、部下が自分の能力を最大限発揮でき、その延長線上に属している組織から最高の評価をされ、自分自身が成長したという実感を得られるようにしてあげることです。文字書いてしまえば当たり前のことですが、実際にやろうとするとこれがなかなか難しい話。

一生懸命にやったことが無駄にならないように、無駄にならないどころかきちんと評価されるように、評価があったことで成長を自覚できるように……このつながりを作り出すためには、組織の期待を理解すること、そして、そのために自分が何をすべきなのか、部下に何をしてもらうべきなのかを考え抜くこと。あなたがやるべきことは、ここに尽きてしまうのです。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。