女性従業員を大勢抱えるベンチャー企業の執行役員が「女性に読んでほしくない女性のマネジメントについて」と題した記事で炎上し、降格処分を受けた。しかしそもそも、なぜ女性は「わがままでめんどくさい」「意味不明な生き物」と男性に思われてしまうのだろうか?

女でも「女性と働くと仕事がやりづらい」と思うことがある

とあるバリバリの理系女子エンジニアが、「レアケースであることは重々承知の上で思うのですけれど」とチョコレートケーキをつつきながら話し始めた。「弊社、あまりに硬派な機械メーカーなものですから、部署内の工学系女性技術者は私だけなんですよ。自分以外が全員男性という環境で10年以上働いてきて思うのは、男性ってものすごく空気を読むし、コミュニケーション能力の高い人達ですよ。むしろ他部署や他社で出会う女性の方が状況を読めていないと感じることが多いし、理解や判断が曖昧だったり遅かったりで、女の人ってコミュニケーションが下手だなぁ、やりづらいなぁと思います」。

女性が口にした「女性と働くと仕事がやりづらい」の言葉に、私はチーズケーキをほじくる手を止めて顔を上げた。「それは、彼女達が理系的な考えの道筋や知識、常識を共有していないからそう感じるのでは? プロフェッショナルな分野が違うからじゃない?」と尋ねると、理系女子は「そうかもしれないと考えて、こちらが知識のギャップを埋めようと一生懸命説明するのに、上の空というか、関心を持ってくれないんです。いかにもつまらなさそうな顔でコミュニケーションをシャットダウン。しかも理解が悪く、何度も同じ説明を要求してくる……あまりに話が合わないことが続くと、こちらも心が折れます」。

その理系女子が所属するメーカーとは、例えばファッションやコスメやスイーツが大好きなキラキラ女子からすれば、存在自体が視野の外にあるに違いないゴリゴリにクールでメタルでヘビーな重工業企業である。「弊社のプロダクト」について目を輝かせて説明するエンジニア女子も、それがまったく耳に入ってこない文系女子も、どちら側の立場でも無理はなかろう……と思ったのだが、世間の「女性は周りが見えていて気遣いができてマルチタスク」的なラベリングと真逆な、「女性は空気が読めなくて冷淡で生産性が低い」という意見を当の女性の口から聞くと、「女とは」「男とは」などというラベリングで語られるアレコレがいかに一面的なものかとしみじみ反省した。

「女性に読んでほしくない女性のマネジメントについて」が炎上

つい先日、家事代行会社ベアーズ(女性従業員が多い業種のベンチャー企業である)の男性執行役員が、「女性に読んでほしくない女性のマネジメントについて」という題でブログ体裁の記事を公開し、炎上した。すでに当該記事は削除済みなので、転載先のこちらから以下引用する。

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家事代行業のベアーズは、当該ブログ記事を書いた執行役員を降格処分し、謝罪文を公表した。

“女性を部下に持った数100名以上、面談で女性を泣かしてしまった回数は50回以上、『あなたがいるなら私は辞めます』と言われた回数2回”などの経験から、女性がいかに「口は出すが責任は負いたくないわがままな生き物」で「数字だけでは燃えてくれないめんどくさい生き物」で「解決しなくても共感してくれればいいと思ってる意味不明な生き物」であるかを説き、読者の反感を買って大いに燃えた。しかも実名だったので、所属企業が顧客感情やブランドバリューの低下といった点から事態を重く見て本人を降格処分し、謝罪文を公表した

炎上したブログ記事を読むと、最後のあたりでは

“女性は男性に比べて気配り目配り心配りと言われるようなきめ細やかなことによく気づくので、顧客満足の発想は男性より豊かですし、「なんとなくそう思う。」みたいな男から言ったら理解できない勘というのも鋭いですし、地頭も良い人が多い気がするし、かわいいしで女性は能力は高いことだらけです。
今後少子高齢化は間違いないので、女性の労働力というのはもっともっと必要になります。しっかりと特徴を理解した上で能力を最大化し国の発展に貢献していくべきだと思っています。”

とフォロー(のつもりなのだと広い心で理解してあげてほしい)もしているから、そこはさすが多くの女性部下を統括してきた元・執行役員、言いっ放しではない。ただ、締めの文で、

“これを読んだ女性から相当な攻撃を受けるとおもいますが、ただただ黙って大きく頷いて共感・受容・支持していきたいと思います。”

と書いているので、自分の状況を俯瞰しながらも毒を捨てない確信犯だったようではある。

まあ、これまで女性部下ばかり100人も相手にしてきてストレスも積もり積もって、一度は言ってやりたかったんだろうなぁ、それで書いちゃったんだろうなぁと、ついその胸の内を想像してしまう。ネット界隈からは「こういうことを実名で書く勇気がすごい」と逆説的に褒められたり(?)もしていたようだ。

「男って○○」「女って○○」は心理学のテクニックと同じ

しかし、

女性がいかに「口は出すが責任は負いたくないわがままな生き物」で「数字だけでは燃えてくれないめんどくさい生き物」で「解決しなくても共感してくれればいいと思ってる意味不明な生き物」であるか

という文をしげしげと眺めてみると、これを主語だけ男性にすげかえてもほぼ意味が通ることに気づき、ついヘヘッと口を歪めて笑ってしまうのだ。

男性がいかに「口は出すが責任は負いたくないわがままな生き物」で「感性だけでは燃えてくれないめんどくさい生き物」で「共感しなくても解決すればいいと思ってる意味不明な生き物」であるか

……ほら、ね。要は、自分と流儀が違う、理解しがたい相手へのフラストレーションをそれらしく書くと、だいたいどれも「そうだ、そうだ」と納得できてしまうということだ。ここで必要になるのが、前回のコラムで書いた「自分と流儀や背景を異にする相手の側に寄せて、通訳する力」である。かなたとこなたを取り持つ力、とでも言おうか。「女ってこうだよね」「男ってこうだよね」と対岸をラベリングしていつまでも川を渡らないのでは、一向に解決しない。だから彼岸を観察し、理解し、橋を渡す作業が必要になってくるのだ。

さすがに最近、女性活躍推進の流れで職場での女性のあり方や何やら、「女とは」の話と取り組み続け、メディアでもそんなのばっかり読んでお腹いっぱいになってきたせいか、「女って/男って◯◯」という話題は、ほぼ占いと同じ心理学のテクニックだのだなと思うようになってきた。

●「女って」「男って」……
・大胆なところもあるけど繊細!
・みんなと騒ぐのも好きだけど自分一人の時間も大事!
・ブルーも好きだけどピンクが好きな時もある!
・ご飯党だけれどパンもいいな!
・スイーツもお酒も楽しい、甘辛両党!
・基本、空気は読むけど、あえて読まない場面も!
・論理的に考えようとするけれど、感情に身を任せるときだって当然ある!

こんな感じで対極めいた両方を併記すれば、誰だって「ヤダ、これ俺/私のこと言ってる!」といった感じで心当たりがあるに決まってるじゃないか、ということである。人間は誰しも多面的で複雑上等、そんな単純でたまるかい。

そういうわけで、異性を「わがままでめんどくさくて意味不明」なんてラベリングはしないほうがいい。なぜなら男女関係なく、それをやった瞬間に自分へブーメランとなって返ってきてガツンと当たるから、である。

河崎環(かわさき・たまき)
フリーライター/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。執筆歴15年。分野は教育・子育て、グローバル政治経済、デザインその他の雑食性。 Webメディア、新聞雑誌、テレビ・ラジオなどにて執筆・出演多数、政府広報誌や行政白書にも参加する。好物は美味いものと美しいもの、刺さる言葉の数々。悩みは加齢に伴うオッサン化問題。