2016年4月施行の「女性活躍推進法」。これにより従業員301名以上の全ての事業主は女性活躍推進の行動計画を策定し、実行に移していくことが求められます。ダイバーシティの目的は企業によって特徴がありますが、女性活躍推進に積極的な企業では、どんなきっかけで取り組みが進められてきたのか、3社の事例を紹介します。

※この内容は2016年1月14日に開催された女性活躍推進法セミナー(株式会社ビズリーチ、株式会社Waris共催)での講演内容を元に構成したものです。

きっかけは離職防止――サイボウズ

グループウェアの開発販売を手掛けるサイボウズは、「イクメン社長」として知られる青野慶久社長が自ら育休を所得したり、都会のワーキングマザーが置かれた厳しい現実について問題提起するワークスタイルムービーを展開して話題になったりと、先進的な働き方を提案するリーディングカンパニーのような存在だ。今でこそ、多様な働き方を選択できる制度を導入するなど、働きやすい企業として知られるサイボウズだが、そもそもこうした働き方改革のきっかけは“離職防止”だった、と人事部の松川隆氏は語る。

サイボウズ株式会社 事業支援本部 人事部の松川隆氏。

10年前、サイボウズの離職率はなんと28%。ITベンチャーにありがちな深夜まで働くハードな労働環境であったこともあり、給与の引き上げや業務転換など、引き留め施策を講じるも、離職に歯止めが効かない状態が続いていた。

離職者に離職理由を尋ねると、その理由は人によってさまざま。そこで、人事制度を従業員一人一人の個性が違うことを前提に、それぞれが望む働き方や報酬を実現する「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」という方針に転換。

ワークスタイルに合わせて残業あり・なし、短時間勤務、週3日勤務など、働き方の選択ができる選択型人事制度や、場所や時間の制約を無くしたウルトラワーク、男女とも取得可能な最大6年の育児休暇や退社後に再入社できる制度、副業の自由化など、働き方についての多様なニーズに対応して柔軟に制度を改善することを繰り返してきた。

その結果、2013年の離職率は4%まで低下、女性社員比率は4割、女性執行役員2人と女性活躍の進んだダイバーシティ企業と呼ばれるまでになった。

世界で戦うために――日清食品ホールディングス

カップヌードルで知られる日清食品の女性活躍推進の原動力は、ずばり“グローバル化”だ。即席めんで日本一のシェアを誇る大手食品メーカーだが、世界市場では国内ほどの存在感を示すことができていない。しかし、国内では、人口減少によりこれ以上の市場拡大は見込めないため、グローバル進出は喫緊の課題だ。

日清食品ホールディングス ダイバーシティ委員会事務局の高橋麻依子氏。人事部人材開発室に所属しているが、横断的に構成されるダイバーシティ委員会の1人としても活動している。

現在は世界19カ国に拠点を展開、80カ国超の国々で商品を販売しており、2014年度の海外売上比率は約20%だが、これを2025年までに50%まで引き上げていくことを目指しているという。

グローバル化を推進する中で、中途採用も増え、ダイバーシティ問題に対応することが求められるようになり、2015年5月よりダイバーシティ委員会が発足した。ジェンダーダイバーシティの目標は、「フツウに女性管理職が3割以上になる会社」。女性であることを特別視せず、普通に働きながら女性管理職が増える環境を整えることを目指している。

ダイバーシティ委員会には専任はおらず、さまざまな現場から集まったメンバーで構成されている。委員会では社員向けのアンケートを実施した他、講演活動などを行ってきたが、全社員一丸となって本気で取り組むためには、やはり経営陣を動かすことが大切、という考えに至った。

そこで役員向けに3分間のプレゼンテーション・ムービーを作成し、ジェンダーダイバーシティ推進のためのプレゼンテーションを行った。ムービーには社内のさまざまな職場で働く女性社員が登場し、「ママになっても営業したい」「海外で働きたい」など、女性社員たちの声を伝える内容。

これが功を奏したのか、翌年、社長の年頭挨拶では「ダイバーシティ元年」という言葉が使われ、「『外国人、女性、障害を持った人、さまざまな人が活躍できる企業体質にしなければならない』という発言を引き出すことができました」と話すのは、ダイバーシティ委員会事務局の高橋麻依子氏。経営陣からのお墨付きを得て、今後は在宅勤務や女性リーダー育成、育児サポートなど、さまざまな施策を予定しているという。

女性活躍は経営戦略――東急リバブル

男性中心の古い体質が残る業界と言われる不動産業界で、女性の働きやすい職場づくりをめざし、女性活躍推進の取り組みを始めたのが東急リバブルだ。

東急リバブル株式会社 経営管理本部 人事部 ダイバーシティ推進課の野中絵理子氏。

東急リバブルにとって、女性活躍推進は“経営戦略”そのものである。きっかけは、2012年7月に就任した中島美博社長(現会長)が、「変革し続けること」を成長戦略と位置づけ、「お客様評価No.1」「生産性No.1」「働きやすさNo.1」という3つの業界No.1を目標として掲げたことだった。この目標達成のためには、ダイバーシティの推進が欠かせないとして、「ポジティブアクション(女性活躍推進)」がスタートし、2013年、業界では初めて社内にダイバーシティ・プロジェクト・チームが発足した。

まずは社内に女性社員のワーキンググループを設置し、営業職を中心に女性たちの活躍を妨げている課題の抽出、対応・改善策について提言を行った。

その提言をもとに、まずは第一段階として2013年から14年にかけて育児休暇制度や時短勤務制度の改定や「くるみんマーク」取得など、育児両立支援の制度の整備、導入をはかった。「事業所内休日保育所の開設」と土日出勤に保育費用を半額負担する「休日保育費用支援手当の支給」は、業界初の試みだ。

第2段階の2013年から15年にかけては、女性社員や管理職の意識・意欲の変革をめざし、研修や施策を行った。特に管理職約500人に向けたダイバーシティマネジメントセミナーでは、「女性に魂が震えるような仕事の体験をさせてあげるのがマネージャーの仕事」とトップからもメッセージを送った。

また、2年目以上の全女性社員に対して期待を伝えるポジティブアクションセミナーを行った。ダイバーシティ推進課の野中絵理子氏は「このセミナーは、女性社員たちからどのような反応があるか心配だったのですが、『これからも頑張ろうと前向きな気持ちになれた』と、好評でした」と手応えを感じたという。

こうした施策により、女性総合職採用比率、女性営業職の割合も上がり、一般職から総合職へ転換するコース転換制度への応募者も2012年比5倍以上も増加するなど、成果が目に見えるようになってきた。女性管理職も現在6名となり、取り組みが評価され、2015年には均等・両立推進企業表彰の「東京労働局優良賞」を受賞している。

このように取り組みは3社3様だが、3社とも女性活躍推進を自社の経営課題解決の一環として行っているところに、共通点がある。女性活躍推進を成功させるポイントは、単に女性だけの問題と捉えず、社員全体の働き方改革、風土改革の好機と捉えて取り組むところにありそうだ。