まずは目の前のことをきちんとやることから
大学に入った頃にバブルが崩壊し、厳しい雇用環境のなかで就職活動をすることになりました。男女雇用機会均等法が始まって10年経っていましたが、まだ仕組みは整わず、新卒総合職採用における女性比率は1割以下の企業も多かったように思います。そこで外資企業に目を向けたところ、最終的に日本ヒューレット・パッカードにご縁があり、一般職の営業アシスタントとして採用されました。
それまで「頑張れば認められる」と思ってきた自分が直面した初めての挫折が就職活動だったと言っていいかもしれません。しかし、状況は状況。まずは目の前のことをきちんとやることだ、営業のことはよく知らないからご迷惑をおかけしないように尽力することだと考えました。結果、2年連続でMVPをいただくことができ、3年目に総合職への転換を希望し、営業職になります。そのチャンスをいただけたとき、せっかくであればトップを目指そう、どこでも通用する営業になろうという目標を立てました。
一般的には「女性には営業は大変なのでは?」と言われることもあるように思いますし、そのように感じている女性もいらっしゃるかもしれません。ですが私は、「目の前の仕事にきちんと向き合うこと」を大切にすることで、その大変さは喜びに変わると考えています。トップを目指すといっても、表彰や他者にご評価いただくことが目的ではありません。会社の看板ではなく、「酒井」にお願いしたいと言ってもらえる。何か困った時には最初に声をかけてもらえる。「お客様の記憶に残る仕事」をご一緒し、ともに価値をつくりだしたいという気持ちを大切にしてきました。
お客様と「共犯」する
長い営業経験のなかでは、当然景気変動のなかで業績が達成しにくい環境もありますし、私自身、ヒューレット・パッカードからマイクロソフトへ、その後リクルートへと身を転じるなかで、担当したばかりで大きな目標額を任されることもありました。しかし私は一貫して、目の前の方のお役に立つこと、目の前の方のその先の方々が、どんな世界が実現すると嬉しいのかを大切にすることで、リーマンショック期も含めて目標を達成してきました。
また、会社の目標設定に文句を言ったこともありません。会社の目標設定には、多少の不都合、不合理はあるものです。担当営業時代には、概ね正しい方向に向かっているのであれば、それでよいと私は考えました。よいといったん感じたら、私はルールに従う。ただ、そのやり方は私なりのやり方でやります。
営業は、もちろん数字も大切にしますが、結果として「数字だけを見ていても数字はいかない」というのが、私の経験則です。まずは自社商品のことは脇に置いておいて、お客様が実現したいことは何か、それはどのようにしたらより望ましい形で実現できるのかを、お客様と議論しながらつくりあげます。
よくお客様から、「酒井さんの数字にならないのになんでそこまでしてくれるの?」「なぜ酒井さんのサービスとは関係ないことなのに、一緒についてきてくれて段取りまでしてくれるの?」といったことをおっしゃっていただくことも多いのですが、私からすると、その時にはすでに私自身も実現したい気になっているので「必要だと思うことはあらゆることをやるのが当然!」という感覚です。
ある知人に、「酒井さんって、『共犯者力』がありますね」と言われたことがありますが、たしかにお客様と一緒に、ワクワクちょっと悪巧みをしているような感覚もあるかもしれません。
総仕上げとなるような仕事を!
マイクロソフトでは中央省庁を担当させていただきましたので、関係者も多く、また商談額も大きいものでした。結果的に当時のグローバルのトップにまで表彰していただける仕事になりましたが、最初はお一人お一人との関係づくりから始まりました。最終的に「みんなが実現したい世界」である、国民の皆様の利便性向上という大きな目的を果たすために、社内外含めて本当に多くの方にサポートいただき、実現できたことだと思っています。
また、リクルートに転じてからは、自分なりに営業のハイプロとして極めよう、総仕上げとなるような仕事をと考え、とある大手製造業の企業様とご一緒させていただきました。
それまでの仕事で、もし商談の金額を大きくしたいのであれば巻き込む対象を広げればよいのだということがわかったので、次はより深い営業をしたいと考えたのです。そこは創業者の理念が大変著名な企業様で、私自身、その理念に大変共鳴しまして。もともと、その企業様とはほぼお取引がなく、失うものはないのだから思い切って踏み込んでみようと考えました。
私はそのとき新卒採用のお手伝いをしていましたので、ぜひ学生の皆様にもこの企業の素晴らしさを知っていただきたいと、自社のスペシャリストはもちろんお客様にもお話をして、どう実現できるかを皆で考え抜きました。最終的には、著名かつご多忙を極めるご創業者に、企業の枠組みを超えて若い世代の人にメッセージを届けていただきたいこと、そしてそれがその企業様にとっても優秀な学生の採用につながることを様々な形でお伝えし続け、若い人々の心を揺るがすようなメッセージを紐解き、広くお伝えすることができました。