今回の座談会は、スペシャリスト、マネジャー、限定正社員と、さまざまな立場の女性にお集まりいただきました。現在、安倍内閣が議論を進めている「限定正社員」の是非について話し合います。

冨田さん/夫とともにスマホゲームを評価するメディアを運営する会社を立ち上げ、経営に携わる。創業して3年目。
畠山さん/大手IT系企業でアプリの開発を担当。係長。結果を出して昇進していきたいという意欲が強い。
中西さん/総合病院で看護師長として勤務。職場にはスペシャリストとマネジメントの道を行き来できるしくみがある。
寺田さん/化粧品メーカー勤務。販売員を指導する社内インストラクターとして活躍。地域限定の勤務契約。
西川さん/大手通信会社の人事部門でダイバーシティ推進室長として勤務。女性社員の活躍を重点事項として取り組む。
※日本女子経営大学院の協力を得て5人の方にご参加いただきました。

【畠山】限定正社員とは、転勤なしの「地域限定」、職種をまたいだ異動がない「職種限定」、それと短時間勤務などの「時間限定」のいずれかですよね。こうした多様な働き方の選択肢が増えたこと自体はいいことだと思います。ただ、それが育児と仕事の両立をしたい「女性限定」の働き方としてセットになってしまっているのは違うなと感じます。わが社には育休復帰後の「短時間勤務の女性社員」は使いづらいという雰囲気がすでにあります。限定正社員もまた、そのようなレッテルを貼られることにならないかと。

――限定正社員化させたい本丸は給料の高い中年社員なのではと指摘する学者もいます。

【富田】だったらいいなと思います(笑)。どの企業にも正社員だというだけで、大して仕事もできないのに給料を貰いすぎな人がいっぱいいますよね。それを是正する施策には大賛成です。

【西川】最近は、定年後の雇用延長の話もありますよね。つまりは皆、同じ会社で長く働く時代になった。そうすると、ホワイトカラーは全員、ゼネラリストの管理職を目指せという方向は違うのではないか。ゼネラリストとスペシャリストを再定義すべきじゃないか、とは思います。

――スペシャリストコースの人は、「限定正社員」を選んだほうがいいという意味ですか?

【西川】それが企業の人件費増大問題の解決策の一つになりえるのではないか、という気はしています。

【畠山】わが社では実際、グループ会社から地域限定正社員の運用を始めています。最初は、育児や介護中の社員に手をあげさせていたのですが……。

――肩たたき的にパフォーマンスの低い中年社員に「あなた、限定で」という動きはありますか?

【畠山】現場では、あるようです。たぶん、会社はだぶついた管理職層を減らしたい、増大化する人件費を減らしたい意図があるのだと思います。ただ、成果を出していない人を限定正社員に誘導するのだとしたら、なぜその人たちが選ばれたのか、周囲の人間が納得できる評価軸を会社側が出さない限り、運用できないと思います。

【寺田】私は自分自身が東京限定の限定正社員なんです。営業部隊のリーダーをしています。その立場から言うと、実際、正社員と限定正社員の違いは不明瞭なんですね。やる気のある限定正社員はその職務範囲を超えてしまう。例えば私は部署の会議に出ますが、管理職にプレゼンをするのは総合職と決まっていて、発言もできない。でも、限定正社員でも社歴が長く、役職がついていたりすると、現場では経営的な仕事を任され、実際マネジメントをやっている。ところが、それが評価されず「(限定なのに)エラいね」で終わってしまう。なので、年内には総合職への転換試験を受けるんです。

【中西】その点私たち看護師は永久ライセンスなので、スペシャリストの道を目指すこともできますし、看護師長のようにマネジメントを目指すこともできる。そして、途中でその進路を変更することができるんです。

【富田】それはいいですね。一度短時間勤務を選択した人が一生「時短の人」扱いで昇進なしというのではモチベーションも上がりませんし、ライフステージに応じて、限定的な働き方と総合職的な働き方を行ったり来たりできるのが理想ですよね。

【畠山】私は、同じ会社の社員でも正社員と限定正社員で、あまりに待遇に差が開きすぎるのは問題だと思います。そうした意味でも、相互に乗り換えられる制度に賛成です。

【西川】総合職はいまだに長時間労働した人が評価される傾向にある。家庭の事情でそれができない人が限定正社員を選ばざるをえないのなら、そもそも正社員の長時間労働問題を何とかしなければなりませんよね。

Dear Prime Minister
仕事ができないのに給料を貰いすぎている中高年対策として制度を運用してほしい

提言:処遇に格差があり、階層化を進めてしまうデメリットも

●日本女子大学教授 大沢真知子さんから

正社員には雇用の安定があるが、勤務地、職務の内容、労働時間などは、会社の命令にしたがうことが暗黙のうちに想定されている。他方、非正社員は処遇も低くなり、能力開発の機会もない。

家庭責任をもって働く労働者が増えるにしたがって、その中間の働き方のニーズが高まってきた。そこで提案されたのが限定正社員である。2011年には働く人たちの2割程度がこのような働き方をしているといわれている。

12年には労働契約法が改正され、職場で5年以上働く有期労働契約者が申し込めば、無期へと転換できることや、近年は非正規労働者不足が深刻化していることから、優秀な人材をキープするために、非正規労働者の限定正社員化を進めている会社も増えている。

限定正社員のメリットはいうまでもなく、雇用が安定しているということである。それが働くもののやる気を高める。他方、デメリットもある。それは、処遇格差が依然としてあることだ。それが労働者の階層化を進めてしまうことになる。雇用保障の程度においても正社員ほどではない。

また、女性の活躍が企業にとって不可欠な時代になってきており、無限定正社員の残業時間を削減し、生産性をあげることが求められているにもかかわらず、それを標準的な働き方としながら、限定正社員という例外的な働き方を認めている。これでは問題の本質的な解決にはつながらず、かつ男性の育児参加も進まない。

限定正社員という働き方が標準的である、という認識からスタートするとともに、正社員と非正社員の待遇格差を解消するために、「同一価値労働同一賃金」の原則を確立することが求められているのである。