問題点もざくざく

実証実験の結果、問題点もたくさんあぶり出されました。その一つが、労働時間が減らない人もいたこと。これはツールが「出社向け」であることが原因で、ツールの改善、つまりICTへの投資で解消できそうです。

またリモートワークをするかしないかを誰が決めるかについても議論が必要でした。最終的に導入した今、リクルートマーケティングパートナーズでは個人の選択と自律性を重視し、上長が特定の場合に社員からのリモートワークの申請に対してNGを出せるようルール化する事で落ち着いたということです。

申請に対して「OKを出すルール」にするか、「NGを出すルール」にするかは重要です。NGの場合はマネジメントサイドに「なぜNGなのか」の説明責任が生じます。ほかにも「前日までに報告すること」や「入社半年以内の新人はひとまずリモートワークはNG」というルールが設定されました。

生産性の問題についても「生産性が落ちたのは夜10時以降」などの意見がありましたが、夜の業務を禁止にすると「子どもが寝た後のお母さんが働きたい時間はどうする?」という問題も出てきます。労基法での「深夜残業」にも触れますので、このあたりは法律との兼ね合いも必要になります。

「ICT環境の整備」「コミュニケーションが少なくなる」「会議が出社する一日に集中しすぎる」などの問題も出てきました。

これらについても導入前に検討され、改善され、また不具合があったら改善するという柔軟な方向で進んでいます。

私が注目したのは「仕事の質が変わる」ということ。週1、2回しか会社に行かないことは、業務、会議のあり方を見直すことにつながります。

グループで「開店閉店メール」を送り合い、その日の仕事の内容と進捗状況を確認するルールが自然に発生しました。

一番変わるのは会議でしょう。

「ホワイトボードでブレストする会議は会った方がいい」「共有のための会議は気になった点だけメールすればいい」といった取捨選択ができます。

以前は上長に「資料みてください」と送りつけるのは失礼なのではという意識があり、情報共有に30分もかけていたそうです。しかし会議の効率を考えれば、事前の資料、それも5分でわかるものを送るのが当たり前になっていく。

会議資料も減り「論点設定」も深化します。起案者は「今日のポイントはここです。ここだけ説明します」と何を捨てるかを選択する。余った時間は新しい課題について討議できます。

導入と同時にフリーアドレスに

さらにオフィスも変わります。今までは自分の席が決まっていましたが、導入と同時にフリーアドレスになりました。「隣の人はまったく姿を見せないなどの不満がでるのを防ぐため」です。

今も「違うグループの人がどこにいるのか、または出社しているのかがわかりにくい」などいろいろ問題が出ては改善されています。

また社内のコミュニケーションスペースをあちこちに配置し、部署を超えた交流から新しいアイデアや企画が生まれることもあります。

導入のコツは「まずは全員でやってみる」こと。そしてルールは「“プロジェクトチームではざっくり”&“各組織ではじっくり”」決めるのが良いそうです。

さらに常に問題をあぶり出し、柔軟に変わっていくことです。リモートワークはまさに「柔軟な働き方」なのです。リクルートでの問題抽出と改善の状況が一目でわかるサイトをここにご紹介しておきます(http://re-recruit.jp/reconsider/)。

他社でリモートワークの制度があっても、「育児期の人のため」「手続きが面倒」「文化がない」などの理由で、使われていないことも多い。

マイクロソフトでは「システム、制度がすべて整って文化だけが障壁だったときに3・11が起きた。樋口社長(当時)が1週間の出社停止を宣言し、やってみたら、何も悪いことはなかった。むしろいいことだらけだった」と一気に導入が進んだそうです。

林さんは言います「よくさぼる人が出てこないか、と聞かれますが、もともと事業を通して社会に貢献する理念のもと、働く目的意識を明確に持った自律的なタイプの人が多い会社なので、あまり心配はしていません。もともと、全社を挙げたMVP表彰など、成果を讃える文化やモチベーションを高める仕組みはあります。仕事の評価、見える化を進め、さらに、上司が逐一進捗管理を行う管理型のマネジメントから、自発的な欲求をベースとしたマネジメントへ変化させていきたい。そうでないと成果はあがらないからです」

リクルートの挑戦はまだまだ始まったばかりですが、リクルートは日本の働き方の文化を作ってきた企業。大きなよいショックが日本全体に広がる契機となってほしいと思います。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。1億総活躍会議民間議員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊1月5日発売『専業主夫になりたい男たち』(ポプラ新書)。