大雪の日に出社する必要はある?
みなさま、首都圏が突然の雪にみまわれた、1月18日はどう過ごされていましたか? わたしは大学にいたのですが、「3時間ぐらい電車に閉じ込められていた」という学生もいました。
駅は長蛇の列で、寒い中、駅構内にも入れずただ並ぶだけ……。こんな思いをして通勤してきた方、「本当に会社に行かないと仕事ができないのか?」という疑問を感じなかったでしょうか?
同じ会社員でも「この3時間、家やカフェで働けばどれだけ生産性が上がることか……」と疑問に思う人と、「まずは会社に行かねば」と習慣的に行動する人がいるはずです。そして「会社に行かなくても仕事ができる」会社と、まずは「行かないと仕事ができない会社」があるはずです。社員としての働き方や生産性への意識と、会社の姿勢が問われる、雪の首都圏でした。
「この日は通勤途中でこれはダメだと思って、カフェでのリモートワークに切り替えました。出社した人はいつもよりは少なかったようですよ。部署によっては、前日から『明日は無理せず、できればリモートワークで』と通達が回っていましたから」
こう答えてくれたのはリクルートホールディングスの「働き方変革プロジェクト」メンバーの栗崎恵実さん(広報部)。
リクルートホールディングスからは、新年に「上限日数なし・雇用形態にかかわらず全ての従業員を対象としたリモートワークを2016年1月より本格導入」というメールをいただいていました。
昨年、リクルートホールディングスにて試験導入をしたリモートワークですが、ついに本格導入ということです。先行して導入していた会社も含め、グループ内の3社2000名がリモートワークの対象になっているとのこと。
“長時間労働の巣窟”が変わろうとしている
昨年「リクルートが極端にいえば週1日しか出社しなくてもいい働き方を導入しようとしている」という情報が入り、すぐに取材に行きました。
なぜなら私にとっては良い意味での「リクルートショック」だったからです。
リクルートといえば、「やり切る」がスローガンの社風。その猛烈な働きぶりは伝説になるほどで、「不夜城」であり、長時間労働の巣窟というイメージだったのです。
昨年からずっと「働き方改革」をテーマに経営者インタビューや取材を続けています。私にとっての働き方改革とはまず「長時間労働の是正」と「場所と時間にとらわれない柔軟な働き方(テレワーク、リモートワーク、スマートワークなどと言われる)」です。
それができない会社に真の女性活躍はないと思っています。
リクルートは女性が活躍することで有名な企業ですが、同時に「男女問わず長時間働くことが求められるマッチョな職場」というのが私のイメージ。リクルートの働く母として紹介される人はほとんどが「スーパーマザー」「凄母」であり、その影には「時短をやめるとすぐに残業が当たり前の生活になるので、時短を続けざるを得ない。いったい私のキャリアはどうなるのか?」と嘆く女性たちがいるという構図もあります。
成長と活躍は保障されているが、スーパーウーマンだけしか両立×活躍は厳しいというマッチョ職場なのです(すみません、あくまで個人への取材からの私見ですが)。
リクルートが変わる! しかも柔軟に! 私にとっても良い意味のショックですが、リクルートに追いつき追い越せでガツガツ働いてきた同業者にとっては、大ショックではないでしょうか?
集中の度合いが違う!
ただ、私には「長時間労働企業が、そのままリモートワークに突入すると、家で死ぬほど働いてしまうのでは?」という懸念がありました。取材に行き、その疑問を直接ぶつけてみると、懸念は払しょくされました。
「会社で8時というと、まだまだこれからという感じだった。でも在宅で8時まで働くと、もう遅くまでやったという感じがする」
これが、実証実験を経た人の実感です。集中の度合いが違うのでしょう。
実際にどんな生活になるのか、聞いてみました。
「会社以外では、自宅やカフェ、時間貸しオフィスを仕事場としています。リモートワークの日は主に、保育園から近くのカフェに行って仕事、お昼頃に帰ってきて昼食をとり、午後は自宅で仕事というパターンが多いです」(栗崎さん、1児の母)
「自宅でのリモートワーク時は書斎やリビングのダイニングテーブルで仕事をしています。2人目が産まれたばかりなのですが、朝8時に上の子を保育園に預けたあと、8時5分から仕事が始められるんです。昼12時まで集中すると、かなり疲れたなという感じになる。お昼は外食し、午後はカフェか自宅で仕事。週3回は保育園に迎えに行けるようになりました。また、毎週金曜日は、とある大学の社会人向け講義に通い始めました」(林さん 広報ブランド推進室室長 兼 「働き方変革プロジェクト」リーダー 2児の父)
ほかにも「大学でお世話になった先生を久しぶりに訪ね、担当している業務に関する最新の知見を得たり、意見交換ができて視野が広がった」「クリーニング屋に平日にいけるので週末のタスクが減る」「家で仕事をしていると、外に出て誰かに会いたくなるので、自らインプットの機会を探すようになる」などの意見がありました。
88%が効果を実感
リクルートホールディングスは、リモートワーク導入前の2015年に実証実験を行っています。参加者に事前事後アンケートを実施し、リモートワークの効果・課題を明確化、改善したうえで本格導入を進めるためです。
「ワークライフバランスの実現」「新しい働き方の実現」「健康保持」など、参加者の88%がリモートワークの効果を実感していることがわかりました。
また会社へのロイヤリティも上がりました。「家族や友人に対しても働くことを勧められる」の項目で12.3ptの上昇。現在の会社で働き続けたい、また近しい人にも勧められるという意味で、人材戦略としても効果的です。
これだけの効果が出せたのには、「まずは振り切ってやってみた」ことが大きいでしょう。週1回などの導入はよくありますが、「出社制限」までして、週1、2回しか会社に来ないようにさせる。これは大きな賭けです。
しかし振り切った結果、「リモートワークはもうやめられません」という声がアンケートで多数出ているのだそうです。
リモートワークが食わず嫌いになっている人こそ、まずやってみる! が重要。しかし、運用については「きっちりと決めず、問題点をあぶり出しながら柔軟に見直しをしていくこと」が必要です。
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。1億総活躍会議民間議員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊1月5日発売『専業主夫になりたい男たち』(ポプラ新書)。