何度注意しても同じミスを繰り返す部下にイライラしたことはありませんか。本人のやる気を疑いたくなりますが、その前に自分の思い込みが問題解決を妨げているのではないか、と疑ってみては。そのための2つの質問法を紹介します。

思考を追い込む「メンタルモデル」とは?

日々の仕事の中で、何度も同じことを繰り返してしまい、問題が全く解決しないと感じたことはありませんか? 同じ問題がなぜか何回も発生したり、ある方向に努力し続けても一向に状態が良くならなかったりした経験はありませんか? そうした事態は、自分の中にある「前提」や「思い込み」が引き起こしているかもしれません。

私たちは常日頃、さまざまな「前提」や「思い込み」を持って生活しています。それは気が付かないうちに形作られ、日々の反復の中で認識できないほど強固になってしまいます。そもそも、なぜ私たちは知らぬ間に「思い込み」を持ってしまうのでしょうか。思い込みとは、私たちが日々の生活の中で作り上げてしまった「こうすれば、こうなる」というパターンの認識です。例えば、リモコンの電源ボタンを押せばテレビの電源がつく、というのもパターンの1つです。実際にはそこにはさまざまな機械的な仕組みがあるのですが、そういう仕組みを知らずともパターン化して覚えることでテレビを見たいときにはすぐにリモコンを探すという行動に移せるようになります。そうやって、私たちは物事をパターン化して覚えることでスムーズな生活を送っているのです。

日常生活からビジネスまで、人は無意識のうちに「思い込み」をしているもの。問題解決の妨げとなる「思い込み」を避ける方法とは?

しかし、場合によってはこうした思い込みが問題解決を妨げてしまうことがあります。例えばリモコンの電池が切れていたら、ボタンを押してもテレビはつきません。「ボタンを押せばテレビはつくもの」と思い込んでいたら、ボタンを何度も押し続けることになってしまいます。思い込みに思考が縛られてしまうと、私たちは袋小路に陥ってしまうのです。そして、自分が思い込みを持っていることに気が付かないと、そうした袋小路から出られなくなってしまいます。このように私たちの行動をも決めてしまうような、無意識下に強く根付いたパターン認識や思い込みを「メンタルモデル」と呼びます。

問題解決の袋小路に陥ってしまうのは、もはや既存のメンタルモデルが役立たないことを意味しています。袋小路から抜け出すためには自分が持っているメンタルモデルを解除すること、そしてそこから脱却して新しいメンタルモデルを確立する必要があるのです。

ダメ評価をする前に、自分を振り返る

では、私たちはどのようにメンタルモデルの解除(アンロック)ができるのでしょうか。 例えば、こんな会話がメンバーとの間で交わされていたら、リーダーであるあなたはどのように行動しますか?

リーダー:Aさん、さっきのミーティングに来なかったけど、どうかしたの? 体調でも悪かった?
A:いえ、特に悪くないです。
リーダー:そう? ならいいのだけれども……。じゃぁ、どうして参加しなかったの?
A:明日提出の書類がありまして、そちらの作業をしていました。
リーダー:でも、君はミーティングに参加するようにとメールで連絡があったよね?
A:ええ、連絡はありましたけど……。
リーダー:じゃぁ、どうして参加しなかったの?
A:……その、さっき言った作業をしていたので。
リーダー:その作業が急ぎなのは分かったんだけども、不参加なら不参加って私に伝えて欲しかったなぁ。
A:はい……すみませんでした。
リーダー:(何か話がかみ合わないなぁ。以前にも同じことがあったし、どうしてこうなるのだろう? もしかしてAさんはやる気が無いのだろうか?)

リーダーとメンバーの間には何かすれ違いがあるようです。なぜ2人の会話はこんなにもかみ合わないでしょうか。そこにある思い込みや前提、メンタルモデルをひもとくために必要なのは、自分自身の視点を振り返ることです。

自分の「観察」と「評価」を問う

会話例の中では2人の言い分はすれ違ったままでした。このような事態に際しては、どんなメンタルモデルが事態を引き起こしているのかについて理解しなければいけません。そして、メンタルモデルを理解するためには、自問自答を通して自分の思い込みや前提を明らかにしていくことが有効です。そのためには「自分が何を見ているのか」、「自分がそれをどのように評価しているのか」という2つの視点から自身に問いを投げかける必要があります。これら2つの視点から自問自答することで、普段から無自覚に行っている「観察」と「評価」を明らかにすることができるようになり、自分の持つメンタルモデルを明らかにできるのです。

「観察」を問う質問とは、自分が着眼している点、着眼していない点を明らかにするための質問です。先ほどのやり取りを踏まえて、リーダーがこの点について自問自答したとすると、以下のような質問と回答になるでしょう。

【自分の「観察」を問う質問】
質問:自分が見ていたのはどんな点だろうか。
答え:チームメンバーのAさんが、リーダーである私に連絡をせず、Aさんの判断で社内のミーティングに参加しなかった。

質問:では逆に、自分が見ていなかった部分(知らない部分)はどこだろうか?
答え:Aさんには作業しなければいけないという理由があったようだが、それを知らなかった。また、なぜAさんがミーティングの欠席について私に伝えようとしなかったのか、その理由も分からない。

このように問い直してみると、リーダーはAさんの行動の理由については先の会話で聞いていましたが、その理由の理由については聞いていなかったことが分かります。それでは、リーダーの行っていた「評価」はどのようなものだったのでしょうか?

メンタルモデルを客観的にとらえる

メンタルモデルを明らかにする2つ目の質問では、自分が下している「評価」を問い直します。「評価」を問い直すとは、どの出来事に対して自分がどのような評価をしているのか、そしてなぜそのように評価しているのかを明らかにするという意味です。具体的には、「私はこれについてどう思っているのか」、「なぜ私はそう思うのか」と問いかける質問です。

【自分の「評価」を問う質問】
質問:自分はAさんの行動をどのように評価しているだろうか。
答え:自分は、Aさんの判断は間違っていると思っている。具体的には、まずAさんはミーティングに参加するべきだったし、参加するかしないかの判断をAさん自身がするべきではなかったと思っている。

質問:自分はなぜそう思っているのだろうか。自分の評価は適切だっただろうか。
答え:自分は、Aさんがミーティングに参加するかどうかを決めるのは、Aさんではなく自分だと思っている。だが、Aさんはそう思っていないかもしれない。そもそも、なぜAさんがミーティングに参加しなければいけないのかを、自分はAさんに十分に伝えていないのではないか。

このように、自分の観察と評価を振り返ることで、自分が知らず知らずのうちに持っていた前提や思い込みを思考の俎上(そじょう)に載せることができるようになります。自問自答を通して自分が持っているメンタルモデルを客観的にとらえることで、メンタルモデルを検討し修正することが可能になるのです。

リーダーが適切な自問自答を繰り返すことにより、自身の思い込みに気づくことができます。しかし、他者からの視点の存在により、袋小路に陥っていた問題の本質的な原因を容易に明らかにできることもあります。次回は、自分ひとりだけではなく、他人も巻き込んで思い込みから自由になり、普段考えもつかないようなアイディアを生み出すための質問についてお伝えします。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)
日本アクションラーニング協会 代表。
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。ジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。2007年1月よりNPO法人日本アクションラーニング協会代表。