「うちの会社、何かおかしい」そう思ったとき、あなたならどうしますか。会社をやめる、見ないふりをする……いろいろあるでしょうが、当事者として関わらざるをえない状況になってしまうこともあります。そんなとき、働く意欲をなくさない方法をアドバイスします。

忘年会シーズンですね。全社で、部署で、チーム単位で……といった具合に、さまざまなサイズでの宴席が何度も設けられ、それに参加するために忙しい毎日を送っている、という人も多いでしょう。

会社の忘年会って、いろいろありますよね。

みんなで集まって飲むのが大好き、という人はいいですが、そうではないタイプには苦痛な時期かもしれません。幹事役で奔走する人もいれば、会での出し物(最近の忘年会では大掛かりなものも増えてきました)を企画するなど、通常業務そっちのけで準備に追われている人もいるはずです。企業の個性が出ていて、とてもユニークだなと思う半面、その個性に違和感を持つ人が一定数いることも事実です。

「うちは、若手社員は全員、前に出て芸を披露しなきゃならない。それが忘年会の鉄則、というかフォーマット。何十年も続いていて、絶対崩してはならない決まりになってる。アイドルのダンスの振りマネとか、芸人の仮装をして一発ギャグとか。それを管理職が採点して競うという……ホント、気持ち悪い」

ある女性管理職が、私にそう愚痴っていました。その場の状況を想像すると、盛り上がっていたり、みんな楽しそうに笑っていたりと、良いイメージを持ちそうですが、人によっては「気持ち悪い」という感覚になってしまう。この例は極端ですが、職場の中の「気持ち悪さ」って実は意外と多い、そう思いませんか?

「健全」という言葉に憧れを抱くワーキングウーマン

歴史の長い会社だと「昔からの当たり前」が、信じられないくらい根深くあることも多いもの。他の企業の人から見たら強い違和感を持つようなことでも、それが当然であると新入社員の時から刷り込まれてしまったら、「この状況、なにか変ですよね?」と疑問を持っていても、言い出すのは難しくなってしまいます。

冒頭に挙げた「職場での宴会のルール」も、人によっては「気持ち悪い」ケースですが、それ以外にも暗黙のルールがあって、ある意味で不健全なものであっても、誰も改善ができない。ビジネスコンプライアンスという言葉が当たり前になってきても、なお、残っている場所がある。

例えば、メンバーが過剰に残業しないと仕事がフローしてしまう組織なのに、人を適正に配置すると利益が出ない状態になっていた場合。「それには目をつぶって、むしろ残業をみんなが進んでやる仕組みなり方法を考えろ」と上司から指示されたとしたら。頭を抱えたくなる気持ちは、分かります。

あるいはあからさまな情実人事、例えば、男性役員と管理職女性が恋愛関係にあり、その結果、女性の昇進が早くなるなどということが、まかり通っていたとして。人事を執行する当事者には文句が言えないし、恩恵を被る対象者にもいろいろなことが言いにくい状態になってしまう(読者のみなさんも大人ですから、分かりますよね、この感じ)。

明らかにおかしい、そう思うことでも言い出せない立場になってしまうことがあります。

「関わりたくない」が、「関わらなければならぬ」矛盾

職場の中や企業における不健全さが気になったとき、目を背ける、もしくは逃げ出す、できれば健全な状態に持っていくなど、何らかのアクションすることができるなら、それはある意味幸せな状況です。

しかし、キャリアの曲がり角くらいの年齢に達しているみなさん、管理職でおそらく仕事もバリバリこなしているような人には、次の試練が待っているはずです。それは「自分も不健全な状態の当事者にならざるをえなく」なってしまうこと。本音を言えば関わりたくない、けれども、関わらなくてはならない状態になってしまう。一人でどれだけ抗おうとも、結果として不健全に加担してしまうことになり、心の平静が保てなくなる……といったシチュエーションです。

さらに今のご時世、インターネットを通じて、他の企業の情報も相当量流通しています。それこそPRESIDENT WOMAN Onlineにも、健全で、見る人が見たら「まばゆい光を放っている」企業がたくさん登場しています。以前のように他社の事情はよく分からないのが普通なら「自分の周囲の常識=世間の常識」だったかもしれませんが、今はそうでもないことが事態をさらに複雑にしています(今でも、本当のことはよく分からないのかもしれませんが)。シンプルに一生懸命に仕事がしたいだけなのに、結果として、矛盾の中に巻き込まれてしまって、働くことすら嫌になってしまうというケースは意外に多いはず。

「心の平静を保つ」ために、すぐできるちょっとしたこと

働く意欲をなくさないために、まずできることが2つあります。1つは「現状が健全なのかどうか、改めて確認してみること」です。もしかしたら、自分がそう思い込んでいるだけで、周囲はそれほど不健全だとは感じていないのかもしれない。価値観は人それぞれなので、周囲とのズレを知ったところで根本的な解決にはなりません。それでも、そう感じているのは自分だけなのか、それとも周囲も同意なのか、それを知るだけでストレスはかなり軽減されるはずです。周囲も同じように感じているならば、協働で打開する手を考えられるかもしれません。悶々としていても解決は難しいなら、まず行動すべきです。

もう1つは「清濁のバランスを自分で整理すること」です。バリバリ仕事して、出世という階段を登って行こうと考えているなら、残念ですが、清濁あわせ飲む必要があるシーンはきっとどこかでやってきます。時代が変化して、もしくは自分自身の環境が変わって、100%健全な状態で仕事ができるようになればベストですが、それはまだまだ先の話になりそう。だとしたら、どこまで許せてどこまで許せないという「今の自分」の暫定ボーダーラインを決めておくことをお勧めします。歳を取り、ポジションが変われば清濁のバランスも変わります。だからこそ「いまは」という期限付きで、自分に折り合いをつけるのも一つの手なのです。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。