「この人と話すと、つい会話が弾んでしゃべり過ぎちゃった!」という経験ありませんか? 聞き上手は営業の大いなる強み。相手に気持ちよく話してもらって、交渉をスムーズに運ぶには、何に意識すればよいのでしょう?

共感関係は「言語調整動作」から

非言語領域での効果的なコミュニケーションを紹介する本連載、前回まではアイコンタクトと積極的傾聴法について紹介してきました。今回は会話のリズムをつくり、信頼感を深める「うなずき」についてお伝えしましょう。

相手の言葉に対して、しっかりうなずいたり、最適なタイミングで相づちを打つこと、これらを「言語調整動作」と言います。他にも相手への感動や尊敬を込めて、「ほおっ」と目を見開いたり、話を促したり、会話の進行を調整する動作全般を指します。これらの動作は相手が信頼感を深め、互いに共感や共同の感情「ラポール」を生み出すものとして有効とされています。

相手の話に合わせて、聞き手のあなたが「聞いてますよ」「同感です」とストローク(意図して投げかけるメッセージ)を発信することはとても大事で、話し手はあなたの動作にプラスの感情を抱きます。「理解の早い人だ。説明のし甲斐がある」と“好意の返報性”を持って評価してくれるはずです。そうなれば会話がさらに弾み、2者の間に「ラポール」すなわち共感関係、共同関係が成立することになります。

商談成立のために、やってはいけない言語調整動作

さて、うなずきや相づちは、やたらと差し挟めばいいというわけではありません。気をつけなければならないのは「マイナス効果の言語調整動作」です。

代表的なのはパフォーマンス学で「オートマトン」と呼ぶ動作です。オートマトンとはロボットのような単調な繰り返しや、自動的な動きを指します。動きと同様のものとして、例えば会話中の「はい」「はい」……と等間隔で、話し手とかみ合わない相づちを挟む言い方も要注意です。さらに、意外と見落としがちなのが「なるほど」という相づちです。

相手が何か話したら「なるほど」、別の話をしても「なるほど」とオウムのように繰り返し言う人がいます。これは本人が共感の意思を表しているつもりでも、相手が目上の人だったり苦節何年の経営者だったりすると、「君なんかに簡単に、なるほどなるほどと言われたくないね」と内心反感を持たれてしまいます。

「なるほど」を単独では使わないことをお薦めします。「なるほどそうだったのですか」というような丁寧な受けと感嘆の表現で、尊敬の念がこもった表情と一緒に使ってください。

ミラーリングとミミクリを効果的に使ってみよう

「言語調整動作」に加えて、もうひとつ、相手に肯定的にアプローチする方法を紹介しましょう。「ミラーリング(Mirroring=脳内模倣)」と「ミミクリ(Mimicry=模倣)」です。

「ミラーリング」とは、大脳の神経である「ミラーニューロン」が指示を出していると言われおり、好意のある相手の行動を無意識のうちに真似てしまう現象のことです。会話中、相手が右手を上げたら自分も鏡写しのように、対面する左手を上げたり、相手が書類に目を落としたら、自分も同時に書類を見たり――このように、相手に注目していればいるほど、相手の行動を真似る現象が起こります。

これに似ていてちょっと違うのが「ミミクリ」です。ミミクリとは例えば、職場に素敵な先輩がいて、ああいうふうになりたいと憧れを抱いているとしましょう。そうすると、後にしゃべり方や顔つきまでその先輩に似てくる、というのがミミクリ、模倣です。

このミミクリについては模倣される側の社会的地位や、模倣する側の好意が大きく作用します。相手を尊敬していたり、憧れているとミミクリが発生してくるわけです。

さて、ここにうなずき、相づちの大きなヒントがあります。相手に好意を感じたり、相手が支配的立場にあり、こちらが服従的立場にあるということの表現として、ミラーリングやミミクリを活用するのです。

まず、うなずきや相づちを効果的に使い、その後、例えば相手が会話の途中で、右手に持った書類に目を落として話し出したとします。そこであなたも直ちに相手が持っている右手の書類に目を落としてください。これは一瞬のミラーリングとミミクリです。

私の経験をひとつご紹介しましょう。これはミミクリをさらに意識的にバージョンアップしたものですが、私が経済同友会のU会長に初めて会う機会に、彼がヴィトンの名刺ケースを持っていることを事前に調べていました。そこで自分も、あらかじめ同じものを用意して、挨拶の際におそろいの名刺ケースを出したのです。

会長の目が一瞬名刺ケースに止まりました。そこで私はすかさず「U会長にあやかりたいのですが、仕事は足元にも及びません。だからケースぐらいは、と思って無理をして今日のために買ったのです」と言ったら大笑いされました。「マネですか」と場が和んだのです。そこから緊張が解けて会話が始まりました。これがミミクリの応用例です。ミラーリングとミミクリを意識的に発信しながら、相手に好意を持ち、尊敬心を持っていますよということを発信しましょう。ただし、どちらも多すぎるとうるさくなるので、注意してください。

最後にクライアントとの営業トークで使う、動作分類を整理しましょう。下に紹介するのは、私の専門であるパフォーマンス学の動作分類です。日常で少し意識すると、メリハリの効いた会話運びができるようにになります。

■営業に必要な話中の4つの動作

1.例示動作(illustration)
「こちらを見てください」と手の平で書類を示す時の手の動きなど
2.感情表示動作(affect displays)
驚いたり、強い感動をした時の一瞬の顔の表情など
3.言語調整動作(regulators)
適切なタイミングで対話の調整をする、上手なうなずきや相づち
4.同調動作(mimicry)
相手の動作を反射的に真似る動作

出典:『自分をどう表現するか』佐藤綾子(講談社現代新書、1995年)より改訂
佐藤綾子 パフォーマンス心理学博士

常に女性の生き方を照らし、希望と悩みを共に分かち合って走る日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。日本大学芸術学部教授。「自分を伝える自己表現」をテーマにした単行本は180冊以上。新刊『30日間で生まれ変わる! アドラー流心のダイエット』(集英社刊)は9月4日発売。