単に人が集まっているのが「グループ」とすれば、目的を共有し、互いに貢献できる関係が「チーム」です。リーダーとしてチームをつくり、導くコツは? 質問を使って、メンバー間のコミュニケーションを円滑にする方法を紹介します。

チームを質問で動かす

「どう最近? 新しい部署のメンバーとはなじんだ?」
「それがさ、いまの部署ってあまり“チーム”って感じがしないんだよね」
「仲が悪いってこと?」
「仲は悪くないんだけども、どうにもすれ違いが多くてさ……」

私たちはさまざまな場面で「チーム」を組んで活動しています。ここでいうチームとは、プロジェクトチームのように明確な輪郭を持つ場合もあれば、部署の内外で1つの仕事に関わる人たちのように、輪郭が見えにくい場合もあります。いずれの場合でも、重要なのは複数人での活動が、個々人による単なる作業の集まり以上の価値を持つことではないでしょうか。

熱血漢、おせっかい、個人主義……、いろいろなタイプのメンバーをまとめ、チームをつくっていくのは難しいもの。メンバー間のコミュニケーションに悩むときこそ、リーダーは「質問」の力を上手に使っていきましょう。

この連載「『人』を動かす質問力」では、これまで6回にわたり「問題の共有」と「やる気を引き出す」という2つの視点から、実践的な手法としての「質問」をご紹介してきました。それらの質問は個人間でのコミュニケーションを想定していましたが、リーダーとして必要になるのはN対N(複数人対複数人)のコミュニケーションをいかに円滑にするかという視点です。チームを動かしていくためには、自分を含めたチームメンバー同士の関係性を良くしていく働きかけが必要になってきます。今回から3回にわたり、チームを動かす質問力として、「場づくり」「チームへの問いかけ」「問題へ注意を向ける」という3点についてご紹介していきます。

チームづくりに会議と質問を活用

単に人が集まっている状態を“グループ”としたら、冒頭の会話にある「“チーム”という感じ」とはどのような状態をいうのでしょうか。チームが持つべき要素として、単に人が集まっているだけでなく、ゴールを共有し、互いを認め、支援、貢献し合っている関係性が挙げられます。グループがそのような要素を持つとき、私たちはチームになっていると感じられるのです。

それでは、どうすればこのようなチームづくりができるのでしょうか? それにはN対N(複数人対複数人)のコミュニケーションが成されているとき、例えば会議のような場面を活用するのが最適です。つまり、会議でのコミュニケーションを改善することで、チームをより活性化できるのです。今回はまず、会議を活性化するために必要な「場づくり」と、そのために必要な質問をご紹介します。

場づくりがされていないチームでは、例えば特定の人が発言を独占したり、メンバーの発言に不誠実さが感じられたり、途中退席、途中離席などが生じます。一方、場づくりがされている場合は、チームメンバー全員が参加し、積極的に発言しています。それでは、実際にどうやって質問を使って「場づくり」ができるのでしょうか。次の会話例から考えていきましょう。

メンバーの暴走を止めるつもりが最悪の雰囲気に

リーダー:新製品の売れ行きが、目標を下回っています。今日の会議ではこの状況について情報を共有し、どうしたら目標達成できるかについて検討を行います。では、各自現状をリポートしてください。
A:はい、新製品が出て間もないため、販売実績はまだ上がっていませんが、既存顧客のX社が興味を持っています。
B:既存顧客には、製品発表会に来てもらうということでしたが、その案内はしましたか?
A:うーん、X社は、発表会よりも自社環境で導入可能かどうかを気にしているので……。
B:だから、せっかくの機会なんだから、発表会に来てもらったほうがいいに決まっているのに、なんで言わないのかなぁ。この発表会が設定されている意味、みんなよく分かっていないじゃないの。私は、自分の顧客にはすべて連絡し、少しでも興味がある方には、来てもらうことをマストにしています。そもそも、現状は……。
A、C、D:(沈黙)
リーダー:Bさん、ちょっとストップ。あなたの意見だけをしゃべらないでください。それに、発表会に来てもらうのが必ずしもいいとは限らないよ。
A、B、C、D:(沈黙)

この会話例では途中からBさんが熱く語りだしてしまいました。そしてリーダーがBさんの発言を止めたことで、さらに場がしらけてしまっているようです。確かにBさんは自分の見方を押し付けることで会議の場を独占していたので、メンバー全員が参加する雰囲気にはなっていませんでした。ですから、リーダーとしては何かしらの方法で場の雰囲気を修正する必要があります。しかし、リーダーのこの発言ではよりよい場をつくることはできなかったようです。

実は、集団では、“自己修復力”ともいうべき作用が働きます。例えば、誰かと誰かが衝突したときには自然と両者の間に入って関係修復を促す人が出てきます。リーダーとして場をつくるときは、自分の力でどうにかするのではなく、できるだけチームの自己修復力に任せるべきなのです。ですので、リーダーがチーム内の関係性を整備するためには、以下の3点を念頭におかなければなりません。

チーム内の関係性を整備するために必要な3つのポイント

1)自分(リーダー)の判断を表に出さない
2)話し合いの状況そのものを、メンバーに俯瞰させる時間を与える
3)語られることのないそれぞれの気持ちを、対立しない形で表出させる

あなたがリーダーだったらどうしますか? リーダーとして、チームにどんな「問いかけ」をしたらいいでしょうか? 先ほどの場面ではリーダーは自分の意見を伝えて、Bさんにブレーキをかけていました。前述のリーダーがチーム内の関係性を整備するために必要な3つのポイントに気を付けると、どのような「問いかけ」になるでしょうか?

“自己修復”のきっかけとなる質問を

リーダー:今、私たちはどんな状況だろう? Cさん、どうですか?
C:……ちょっと、居心地が悪いです。
リーダー:どうすればよくなりそうですか? Dさん、どうかな?
D:Bさんの成功事例も聞きたいのですが、まずは各自の状況を確認してから、その後で具体的に聞かせてもらったらいいと思います。
リーダー:Bさんは?
B:すみません、ちょっと熱くなり過ぎましたね。自分が営業推進部に発表会を提案したもので、つい……。
A:え、そうなんですか!? 知りませんでした。発表会って、営業推進部が企画しているのかと思っていました。
リーダー:では、各自の現状リポートに戻りましょう。

リーダーの発言によって何が起きたでしょうか? まず、Cさんから「ちょっと、居心地が悪い」という発言が出てきました。この発言によって、皆が「場」の状況を共有し、振り返ることができました。そして、議題(リポート)とは異なる点について問かけることで、Bさんが状況を俯瞰し、自分の発言の背景を話したことで、AさんはBさんの発言や立場についての理解を深めることができました。

このように、チーム全員でのコミュニケーションを活発にするためには、質問を使ってメンバー間のやりとりに関与し、望ましいコミュニケーションを生み出す必要があります。そしてその際には、リーダーがメンバーの自己修復力を生かせるよう、問いかけの形で関わることが重要です。次回はこうした会議の場面において、チーム内でのやり取りをさらに活発にするための質問をご紹介します。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)

日本アクションラーニング協会 代表。
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。ジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。2007年1月よりNPO法人日本アクションラーニング協会代表。