シリコンバレーのFacebook本社では、ジムや3食無料の食事を提供するなど、社員の働きやすい環境作りに注力している。Facebookが求める“良い人材”とは? 級成長する会社での人材開発・教育のポイントは? HR部門幹部のジャネル・ゲイル氏にその取り組みを聞いた。

【前編】はこちら 「LEAN IN」を実践。Facebookはどのように女性社員の力を伸ばしているのか? http://woman.president.jp/articles/-/614

シリコンバレーの企業“キャンパス”は、カフェ、ジム、歯科医院まである“町”

シリコンバレーにあるFacebook本社は、「キャンパス」と呼ばれる。その広大な敷地に、町1つ分の機能を兼ね備えているからだ。例えば、無料のカフェや食堂はもちろんのこと、スポーツジム、歯医者、自転車修理店まであるという。それは、ただ社員に楽しんでもらおうというわけではない。

シリコンバレーのFacebook本社。広大なキャンパスには建物面積約40000平方メートルの社屋が建ち、その屋上の一部は公園として緑化されている。広いキャンパスを行き来するため、社員が自由に使える自転車を完備している。

「私たちは、社員が力を出し切って働けるような環境を整えるようにしています。キャンパスの機能もその1つ。人々が、ワークライフと家族との時間など、それぞれの生活のバランスをとるのは容易ではありません。やるべき仕事はいっぱいあるのです。しかも、それらを健康的にこなしていくことは絶対条件ですよね。ジムや無料の食事の提供もそのためには必須なのです。ですから限られた時間の中で、社員がそのバランスをとれるような支援をしているんです」

これだけの働きやすい環境を用意してまでFacebookが欲しい人材とは、どんな人なのだろうか?

「企業として求めているのは、常に難問を解決しようと取り組む姿勢があり、そのチャレンジを楽しめる人です。そして、大きなスケールで物事を作り出していける人。Facebookのミッションは、世界中の人々をつなぐという、壮大なものです。そんな大きな課題にワクワクして、何が何でも達成するという熱い思いのある人を求めています」

ここまで世界に広がっているFacebookでも、世界中の全ての人をつなぐとなると果てしない壮大なミッションに聞こえる。それでも、目をキラキラ輝かせながら話すジャネルを見ると、それが近い将来実現可能であり、共にそのミッションに突き進む心強い仲間たちがいることを感じさせた。

公私をオープンにするFacebookの働き方

Facebookの創設者、マーク・ザッカーバーグは「ミレニアル世代」と呼ばれる世代だ。1980年代前後から2005年頃までに生まれた人たちで、10代からデジタル環境になじんだ最初の世代である。

写真上/メンローパークのFacebook本社 “MPK 20”は
2015年3月に誕生した新オフィス。建築家は著名なフランク・ゲーリーだ。写真下/オフィスの壁面を飾るのは、地元で活躍する15人のアーティストによるインスタレーション。自由でオープンな空間が社員の意欲をかき立てる。

「Facebookという企業には、マーク・ザッカーバーグが持つミレニアル精神が宿っています。一言でいうなら、『みんな平等で民主的だ』という考え方ですね。いろんな世代の人が働いていますが、平等であるということは、女性が野心を持ったり、キャリアを追及してもいいということです。そのためのサポートはもちろん必要ですけどね」

平等で民主的、そしてオープンな風土というのは、Facebookの起業精神の根本だ。その代表例が会社の事業でもある“Facebook”を社員が全員公私で使い、つながっていることだ。仕事もプライベートもオープンにつながっている関係が、社員間にあるという。

「社員によっては、とてもオープンな人、あるいはパーソナルライフをほかの人と共有したくない人、といろいろタイプがいます。それは自分で設定できます。そして、Facebookという会社は、それも個人の個性の違いとして尊重するような職場環境なんです。でも、同僚同士がよりつながりやすい環境が提供され、仕事でも刺激し合えるような職種ごとのLEAN INサークル(http://woman.president.jp/articles/-/614)も盛んなので、圧倒的にオープンな人が多いですね」

この開かれた風土は、企業の良い時だけでなく、問題がある時にもそうであることが大事だとジャネルは強調する。

「毎週開かれる幹部との質疑応答セッションでも、マークやシェリル・サンドバーグが『誰でも何でもいいからどんどん聞いてくれ』とみんなに伝えます。失敗談でもビジネスでうまくいってないことでも、彼らはきちんと真実を説明し、共有します。そんな経営側の姿勢を社員全員がならい、良いことも悪いことも共有していくことが重要だと思っています」

企業では、つい悪いことを隠してしまいがちだが、それがさらなる悪循環を引き起こすことが多々ある。Facebookでは日頃から小さなことでも共有することで、みんなで解決していこうという姿勢をとっているのだ。

“LEAN IN”で語られた、ダイバーシティを実行する

ジャネルは、社内のダイバーシティ担当でもある。Facebookでは、管理職向けのビデオを制作し、偏見をなくしていくためのプログラムを多々行ってきた。

「偏見は、誰もが何かに対して自然と持っているものです。人種、ジェンダーなどダイバーシティにはいろいろありますが、例えば、男性の方が仕事で優位にあるような思い込みもその一例です。実際にあったことですが、ある会議で女性が意見を言うたびにさえぎる男性がいました。本人は無意識だったのですが、そういった習慣も上司が指摘することで改善しました」

ダイバーシティの根本的な教えは、シェリル・サンドバーグの著書『LEAN IN』に詳しく記してある。自分からもっと前に乗り出して、行動によって変えていくことが必要だというのだ。社員はほぼ全員シェリルの著書を読んでいるが、ジャネル自身もいまだに自分の気付かない、男性優位の思い込みを指摘されることがあるという。

「会議などで、私がつい後ろの方に座ろうとすると、『ジャネル、前に座って。本に書いたじゃないの!』とシェリルに声をかけられます(笑)。無意識にそうしてしまうんですね」

そのためFacebookでは、意識変革のための取り組みも実践している。その1つが、地域ごとの支社で働く女性を集めて行われる、女性自身に誇りを持ってもらうための、年に1度のWomen's Leadership Day(ウィメンズ・リーダーシップ・デイ)というイベントだ。セミナーや講演などを織り交ぜ、女性たちにエールを送り、お互いを支え合えるよう、絆を深める試みである。南米では80人程度の参加だが、北米では1500人以上が集まる。遠方でも、ジャネルやシェリルが足を運び、直接対話しているという。男女だけでなくいろいろな偏見を取り払っていくためにも、これからも社内ではダイバーシティ推進の多様な取り組みをしていくという。

Facebookのこれから

急成長を続けてきたFacebookだが、HRの責任者であるジャネルの立場から見た今後の課題を聞いてみた。

「企業が成長して大きくなってくると、サイロ化する傾向が見られます。Facebookで大切にしているのは、常にオープンな風が流れる環境です。会社が大きくなっても、社内外の環境において、密に人々をつなぐと同時にオープンな環境を作り、それをビジネスにも反映できるようにしていくことが、HRとしての今後のミッションだと思っています」

人が増えれば、それだけ情報やコミュニケーションの密度は薄まりがち。これまでオープンで自由ながらも、人と人との関係を密にしてきたFacebookにとって、その両方を保ち続けることは、世界中の人をネットのFacebook上で密につなぐというミッションと重なる課題でもある。その要、HR部門の幹部であるジャネルは、明確に次なる課題へと目を向けているようだ。

そんな多忙なジャネルだが、実は2児の母でもある。ここまで仕事との両立は楽ではなかったと話すが、今は次の段階に進んだようだ。

「子どもは9歳と13歳。自分のことは自分でできるようになっているので、だいぶ手は離れましたが、私は6時には退社して子供たちと夕飯を一緒に食べます。夜、子供が寝てからメールチェックなどの仕事をすることはありますが、なるべく子供との時間を大事にしています。子供にとっても世界を知ることは重要な経験だと思っているので、いろいろ話して聞かせていますよ。日本にもぜひ一度連れてこなきゃ!」

人をつなぎ、人が十二分に力を発揮できる環境を整えていくジャネル。分け隔てなくまっすぐな笑顔で相手の言葉に耳を傾ける姿は、これからもFacebookの成長を支えていくことだろう。(本文敬称略)


ジャネル・ゲイルさんのお気に入り

 ■感銘を受けた本  『The New Jim Crow: Mass Incarceration in the Age of Colorblindness』  Michelle Alexander著(New Pr)

 ■モチベーションをあげるもの  歩きながらのミーティング
……考えが煮詰まったら、マーク(CEOのマーク・ザッカーバーグ)とも歩きながら話します。新鮮な気分でいいアイデアが浮かんだりしますよ。

 ■癒すもの  気分転換にキャンパス(会社の敷地)内をサイクリングすること
……キャンパス内に自由に使える自転車があるし、みんな自分の自転車を持ち込んでます。

 ■お気に入りのおやつ  ナッツやグミベア。チョコも好き
……どれも社内のカウンターに並んでいるけど、ついつい手が出ちゃうのよね(笑)


岩辺みどり
編集・ライター。大手出版社の雑誌記者を経てフリー。3カ国への留学経験と20カ国以上へのバックパッカー経験を持つ。ビジネスからライフスタイル、女性活用、教育まで幅広く取材を行う。