Facebook本社の人事 ビジネスパートナー部門トップは、あのシェリル・サンドバーグも信頼を寄せるジャネル・ゲイル。IBMとリーバイス(R)でキャリアを積んだ彼女が、Facebookで取り組む「働く人の才能を引き出す方法」とは?

IBMとリーバイス(R)、2社の経験が導いた天職への道

「好きなことを仕事にして、生き生きと働きたい」。働く女性なら誰しもが、そしてこれから社会へ出ようとしている女子学生たちも抱く仕事への夢。しかしその多くは、希望していた会社や職種ではないところで働いているのが、現実だろう。しかし、長く働き続けている女性たちは、その状況の中でも自分の仕事の楽しみ方や、仕事へのプラス要素の加え方に、気付いているものだ。

Facebookの人事 ビジネスパートナー部門のジャネル・ゲイル副社長。

米・Facebook本社でヒューマン・リソース(人材開発、以下HR)のビジネスパートナー部門のトップとして、CEOのマーク・ザッカーバーグやCOOのシェリル・サンドバーグが厚い信頼を寄せるジャネル・ゲイルも、そんな1人だった。

「組織心理学を勉強したものの、大学院を出た時に自分が何をやりたいか、私には分かりませんでした。博士号まで取る人は、その専門分野で何がしたいのかを明確に持っていると思うのですが、私はそれをどう仕事に生かすのか、決めていなかったのです。ですから、まずいろいろな業界や企業と関われる仕事に就こうとIBMに入社しました」

IBMではビジネスコンサルタントとして、多くの企業のビジネス実践の手助けをし、経験を積んだ。国内外を飛び回る日々は多忙だったが、仕事の楽しみも見つけられた。

「私は学生時代から、人をつなぐという役割をすることが多く、それが楽しみでもありました。キャリアの中で重視してきたことも、人と人とのネットワーキングです。コンサルタントは、企業のビジネスの手伝いとはいえ、結局は人と人のつながりの中で仕事をしていきます。人や企業を助けたい、そうした貢献をすることに喜びを感じることを、IBMでの経験を通じて気付くことができました」

その気付きがあった頃、同じような話をしてくれる人との出会いがあった。それが、転職先となったリーバイス(R)で、彼女を引っ張った人物だった。

「企業が変革期を迎えている時、そこには新たな挑戦があります。それを支えるのは人なのです。また、高い成長期にある企業にも、人材というのは非常に重要で、『ビジネスの成功は人が仲介し、人によって起きる』と話してくれたのがその人でした。そして、私をHRのマネージャーとして呼んでくれたのです」

その出会いは、彼女が本格的にHRの道を拓いていく転機となった。

働く人の才能を引き出す仕事、HRの魅力

欧米では一般的であるHR=Human Resourcesという職種は、日本の人事とは少し異なり、人の採用や異動人事などだけをやるのではない。国によっては、専門レベルの資格試験を設けていることもあるプロフェッショナルな仕事だ。従業員の能力や才能を発揮できる環境や機会を提供する重要な役割を担う。HR次第では、人と人とをつなぎ、新たなイノベーションを起こすこともできるのだ。人と人をつなぐことを生きがいとしてきたジャネルには、ぴったりの仕事に出合えた瞬間だった。

リーバイス(R)でHRとしての経験を積んだ後、Facebookに入り、HR部のビジネスパートナーチームを率いることとなった。ダイバーシティも担当し、急成長にあるFacebookを支える人材採用から育成、職場の環境づくりまで行っている。

「Facebookのミッションは、世界の人々をつなぐこと。これは、私自身の個人的なモチベーションにもなっています。企業として世界中の人と人とをつなぐミッションを支える役割を、私たちHRが担っています。Facebookには、さまざまな才能、人種、バックグラウンドを持った人たちが働いており、その多様性は世界のそれと同様だとも言えます。その多様な社員一人ひとりにとって、働き甲斐のある楽しい場所にすること、100%以上の力を出してもらえる心地よい環境にすることも重要な役割だと思っています」

社員のつながりに一役買っているのが、FacebookのCOO、シェリル・サンドバーグの著書のタイトルでもある「LEAN IN」のサークルだ。「LEAN IN」とは、女性が組織の中でキャリアを積み成長していくために“一歩踏み出す”精神を持とう、というシェリルのメッセージだ。

「私もいくつかのLEAN INサークルに参加していますが、特に管理職以上の女性たちのサークルは、精神的にも私の大きな支え。年に4回くらい誰かの家で夕食を共にしながら、仕事、家族、そのバランスの取り方など話します。一種のコーチングですね。本当に彼女たちの存在のおかげでここまでやってこられたのだと思っています」

このLEAN INサークルは、女性の枠組みだけでなく、さまざまなテーマがあり、商品開発に興味のある人、営業のノウハウを学び合う人、など男女関係なくスキルアップや情報共有を目的としたサークルが多くあるそうだ。

ITで働く女性を育成! ロールモデルとしての役割

世界中の優秀な頭脳が集まると言われているシリコンバレーでは、人材の獲得競争が過熱している。加えてIT業界の女性就労者の少なさは、先進をいくアメリカでも例外ではない。この業界の女性リーダーとしてロールモデル的な立場であるジャネルは、女性たちにもっとこの業界で活躍してほしいと願い、若手育成のプロジェクトにも積極的に携わっている。

「経験者の採用ももちろんですが、IT業界は女性自体が圧倒的に少ないのが現状です。それは、若い頃にそういった分野に触れる機会が少なく、興味を持つ人が少ないから。ですから、高校生から大人までさまざまなレベルのインターンやアカデミーのプログラムを用意し、提供しています。さらに私たちは、いろいろな大学に出向いて女子学生に話をしたり、コンピューター・サイエンスに興味を持つようなイベントなどを行っています。これは、我が社だけでなく業界全体の将来にとって重要なこと。もっと若い女子たちの裾野を広げていけるように、これからも取り組んでいきたいですね」

彼女自身も、キャリアに悩んでいた頃、仕事に困った時などに相談に乗ってくれ、アドバイスをしてくれる「メンター」に助けられてきた。アドバイスをする側を「メンター」、受ける側を「メンティ」と言うが、仕事の利害関係などと関係なく信頼関係で成り立つこの育成の関係性は、日本ではまだ普及しきっていない状況だ。Facebookでは、社内にメンタープログラムがあり、メンターとメンティを相性の合う者同士でマッチングができるよう工夫されている。また、その関係がうまくいくように継続的に両者の教育も行っている。

「Facebookでは、2人の相性のマッチングを大事にしているので、必ずしも女性のメンターが女性とは限りません。今キャリアを積んでいる多くの女性は、男性のロールモデルやメンターを見習ってきたのです。ビジネスの経験の多い男性上司からは女性も学ぶことは多いはず。特に日本の企業は、メンターとの関係構築というのがまだまだ浸透していないようなので、メンター制度の導入・促進を図るといいでしょうね」

これまで周囲に助けてもらった経験から、自分もこれからはメンターとして、ロールモデルとして女性たちの力になりたいという意識を強く持っているジャネル。プライベートでは、発展途上国の女子をサポートする活動にも積極的に携わっている。ただ、自分のキャリアだけでなく、若者への啓蒙活動など、社会的な還元を常に考え実行していく彼女は、確かに「人と人をつないでいく人」だった。(文中敬称略)

【次回予告】後編「Facebookが求めるのはどんな人材?」は10月8日公開です。

岩辺みどり
編集・ライター。大手出版社の雑誌記者を経てフリー。3カ国への留学経験と20カ国以上へのバックパッカー経験を持つ。ビジネスからライフスタイル、女性活用、教育まで幅広く取材を行う。